さぁ、行っておいで
某所 佐倉宅
静かに日が昇り出した頃。
その一室にも朝日が差し込み、穏やかな目覚めを迎えるはずだった。
「やばばばば!しろちゃん何で起こしてくれないの!!」
半ば叫びながら、慌てて支度をするあかね。
何度目かの目覚ましの音で意識が覚醒したものの、とうに起床時間を過ぎており現在に至るのである。
「ふわぁ……昨日遅かったんだ。それに、いい加減目覚ましで起きろ。これから寮住みだろ」
「そうだけど!あーもう!制服はどこ!」
寝不足なのか目をこすりながら、欠伸をする司郎。自らも身支度を整え始めるが、乱雑に支度をするあかねと対照的に動きがやや鈍い。
「支度も昨日のうちに。制服は玄関」
「ありがとっ」
あかねは小走りで玄関の方へ向かい、衣服掛けに掛けてある制服を手に取った。
黒生地に桃色の線が入ったセーラー服。
柄や色は違えど、中学からセーラー服のあかねにしてみれば、馴染みやすく着替えやすいものだった。
素早くスカートを履いて、ハンガーに掛けてあったピンク色のスカーフを取る。
身なりを整えると、近くにある鏡の前に立つ。
「これで大丈夫…………なのかな」
新たに身につけた制服は悪くはなかった。
が、今日から高校生活が始まると思うと、あかねの頭に不安と期待が過ぎる。
「できた?」
玄関とリビングを区切るドアから、ひょっこりと顔を出す司郎。
「一応。どうかな?」
司郎に駆け寄り、軽く回って見せるあかね。
その様子を見て、司郎は優しげに微笑む。
「ん。似合ってる。大徳高校は制服も人気らしいけど、君はセーラー服がよく似合うな」
「そう?子供っぽくない?」
「ちゃんと成長してるよ」
その言葉にあかねは目を丸くし、自分の服装を再び見遣る。
「そう?大して変わらなくない?」
「そんなことないよ。自分では気付かないこともあるでしょ?」
「それはそうだけど」
中学の制服は襟とスカートが紺だったが、今回は黒にピンクの線が入った可愛らしいデザインだ。
この高校を受験した理由の一つでもあり、あかね自身気に入っているわけだが、大人っぽいかは分からなかった。
「そろそろ時間だよ。初日から遅刻は流石にまずいからね」
「うん」
あかねは鞄を持って、靴を履き始める。
「入学式には間に合うように行くから」
「仕事は?」
「半休取った」
司郎はあかねの頭を撫でる。
「ふふ」
「なに?」
「しろちゃんにこうしてもらうの、落ち着くなぁって」
その言葉に、司郎は優しい笑みを浮かべる。
「泣いててもぶすくれても、君はこうすると機嫌が直ったから」
「…いつの話よ」
唐突に幼少の頃の話を出され、気恥ずかしくなる。
「君なら大丈夫だと思うけど、無理はしないこと。何かあったら俺に言うこと。いいね」
「うん。しろちゃんもね」
「ありがとう。いってらっしゃい」
背中を軽く押され、あかねは玄関のドアを開ける。
「いってきます!」
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