大丈夫。これからよろしくね
大徳高校
戸松市にある私立高校。
数年前に出来た新設校で、自由な校風と規則に、少人数制教育。そして何より、一般人と共に、若い異能者を育てることを志している極めて珍しい教育方針を掲げている。
またデザイナーとして活躍している異能者による独特な制服デザインも注目され、近年人気が徐々に上がってきている高校である。
新設校ゆえ実績はまだ乏しいが、進学にも力を入れており、第二、四土曜日は参加自由の補習を設けている。
「クラスはどこだろ」
桜の花弁が舞う中、呟きながら校門を通り過ぎ、視線の先には大きな掲示板とその前に群がる自分と同じ新入生達を見つける。
先日の説明会にて、クラスは掲示板で張り出されると聞いたことを、あかねはぼんやりと思い出す。
人だかりに混ざるのは気乗りしないが、掲示板を見ない事にはクラスが分かるはずもないので、確認しようと歩き出す。
「おーい!あかねー!」
呼び声に振り返れば、校舎の入口から声を掛け、こちらに向かって大きく手を振る昶の姿があった。
「よう!」
「久しぶり」
先日の説明会以来だが、変わらず元気そうな様子であった。
「電話やメールはしょっちゅうしてたけどな」
「そうだね」
楽しそうに笑う昶に、あかねも笑みを浮かべる。
「もう教室にいるのかと思った」
「いたんだけど、あかねがすぐ来そうだったから迎えにきた」
「そっか。ありがと。でも掲示板見ないと」
「掲示板?クラスの事か。それなら心配無用!オレと同じクラスだから!」
「まじ?」
驚いているあかねをよそに、昶は更に目を輝かせ言葉を続ける。
「まじ!しかも出席番号おとなりさん!」
「すご」
嬉しい偶然に、あかねは素直に感嘆の声を漏らす。
「でも席は隣じゃないんだよな……」
「どこなの?」
「窓際から2列目の一番前」
「お気の毒に」
昶の席は、例え出席番号順の席であれ、出来れば回避したいと思う席だ。
あかねは労りの言葉をかける。
――ん?という事は。
「私は一番後ろ?」
「だな」
「よし!」
小さくガッツポーズをするあかねに、昶は途端に歯をくいしばる。
「くっ…やると思ったぜ」
下駄箱に軽く当たる昶を構わず、革靴から上履きに履き替えて辺りを見る。
「クラスどこ?」
「1年3組。ちな出席番号は、オレの前だから5番だな」
言われたクラスと番号を探すと、一年三組の下駄箱は少し離れたところにあり、自分の靴箱は下から二番目だった。
自分の番号が書かれたプレートを目印に、革靴を入れて立ち上がる。
「さて、行きますか。結構来てる感じ?」
「それなりだな。あんま話してねーけど。あ、でもクラスにも寮住みがいて--」
「香住!」
昶を呼ぶ声が響く。
振り向けば、爽やかそうな黒髪の少年がこちらに向かって走ってきていた。
「お、一条じゃん!あかね、紹介しとく。オレの部屋の隣の一条だ」
「なになに?ん、女子じゃん!もしかして彼女!?」
軽いノリでこの場に現れた一条と呼ばれた少年は、割り込むように間に入っては、上から下まで舐めるようにあかねを見る。
「そこそこ可愛い。磨けば光る天然素材ってヤツですな!よろしく〜!いい子掴まえちゃって、香住もなかなかやるじゃん!」
「ちげーよ!ダチだから!な!」
「うん」
若干慌てながらも同意を求める昶に、あかねは頷く。
しかし何を思ったのか一条は眉を顰めた。
「あ、もしかして香住が言ってた例の子?」
「そうそう」
昶の言葉に目を丸くして、一条は再びあかねに視点を定める。
その表情は、次第と思案するようになっていた。
「とてもそうは見えないけどな〜」
「何が?」
一条の視線に、あかねは次第に不可解さを覚え、端的に尋ねる。
「いやね?昶があかねちゃんの事をさ、物事をはっきり言う肝の据わった面白い女の子って言っててさ」
「おい!面白い余計だ!」
昶が慌てて一条につっこむが、そんな事はどうでも良かった。
「ちっこいし、大人しそうに見えるけどなぁ」
そう呟く一条に、あかねは含んだ笑みを浮かべて口を開く。
「あなたがそう思うのなら、それでいいと思うよ。印象なんて人それぞれだし。そもそも誰がどう思おうが私は私。人の価値観なんて知らないわ」
「あ、あかね」
跳ね除けるような発言に、昶はあたふたと慌てた様子で二人を見つめる。
その一方で、一条はあかねを見つめたまま唖然としていて、しばらくしてようやく口を開いた。
「前言撤回。昶の言う通り、面白い女子だ」
「だから面白いとか言うな!」
焦っている昶を無視して、一条はあかねの目の前で手を合わせた。
「不快に思ったらすまん!ちょっとした好奇心だ!許してくれ!」
「大丈夫。これからよろしくね」
その言葉に、一条は反省の表情から笑顔になる。
「ありがとな。んじゃ改めて、俺は一条遊心!クラスは1組な。聞いたと思うけど、寮住みで昶の隣なんだ。よろしくな!」
「こちらこそ。私は桜空あかね。昶から色々聞いてるみたいだから、諸々省くね」
互いの自己紹介が終わると、昶は安心したのか笑顔を取り戻し、一条の方を視線を移した。
「教室にいなくていいのか?」
「いや、佐々木のヤツがいなくなっちまってさ、探してんの。香住知らない?」
「佐々木?見てないけど……ああ、寮のヤツだよ」
知らない名前が出て、疑問に思っていたのに気付いたのか、昶が会話しながら答える。
「マジかー。あいつどこ行ったんだ?」
「さぁ…でもあんまうろちょろするヤツじゃねーから、もう戻ってんじゃね?」
「かもなぁ。とりあえず戻るわ。またな!香住!お嬢!」
そう言い残して、一条は二人から離れると、軽く手を振りながら階段を登っていた。
「…あのさ」
「ん?」
「……お嬢って何?」
「あだ名じゃね?お前の」
「やっぱり?」
妙なあだ名がついた瞬間だった。
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