悩む狼


「…………」


これは素直に喜ぶべきことなのだろうか。

男は目の前にある、自分宛の手紙を凝視しながら思案していた。


「駿くん、どうしたの?」


首を傾げながら、こちらを伺う愛らしい彼女。


「その手紙、駿くん宛てだよね?」

「ああ」

「開けないの?」

「もう読んだ」

「もしかして変な手紙とか?」

「いや……チームへの招待状だ」


そう答えると、彼女は目を大きく見開く。


「ホント!?どこから?」

「ここだ」


差出人の名前を見せると、彼女はさらに驚きを見せた。


「凄い!ここって有名じゃない!」

「最近は落ちぶれているがな」

「でも歴史はあるよ。私だって知ってるし。それに他のチームとは違うって聞いたこともあるよ」

「…………」

「何か不安なことがあるの?」

「……今さら来るなんて、変じゃないか」


率直な疑問をぶつけてみれば、彼女は考える仕草をする。


「んー…確かにスカウトにしては、時期外れなような気はするけど。でも……」

「でも?」


聞き返すと、彼女は少し間をおいて話し出す。


「……これってチャンスじゃないかな。駿くん、ずっとチームに入りたかったよね。でも難しくて。だけど、それでも諦めずに一生懸命頑張ってたのを、私は知ってる。それに今も定期的に応募してるでしょう」

「それは……」


急に気恥ずかしくなり、口ごもる。


「今のとこ全敗だけど、それでも夢を追いかけてる駿くんを、私は尊敬するし、格好良いとも思ってる」

「アリア……」


名前を呼ぶと、彼女は優しく笑った。


「だからね?お話だけでも聞いてみたらどうかな。決めるのは、それからでも遅くないと思うよ」


その言葉に自分の中に燻っていた何かが浄化されるように消えていく。


「…そうだな。まずは知ることが大切か。ありがとう、アリア」

「ふふ。どういたしまして」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る