2「千客万来、百鬼夜行」(2)
ところで、僕の両親は、もうどちらもいない。
母は難病で、僕がまだ小さい時に亡くなった。父は母を深く愛していて、病を打ち明けられたときも、最後までそばを離れることがなかったらしい。離婚するなんてとんでもないと。だから、病気になったのは不幸かもしれないけれど、それでも母は幸せだったと思う。とにかく僕は、そんな真面目な父を尊敬していたし、だから、この先も下の兄弟たちと一緒に、この優しい父親と助け合いながら生きていくものとばかり思っていた。
けれど、そんなことはなかった。
僕が小学校3年の時に、父はいなくなった。父は僕の叔母……つまり、自分の実の妹と共に、行方をくらましたのだ。
あのときのショックは、ちょっとうまく言い表せない。家に帰ったら、いきなり親がいなくなっていて、いつまで待っても帰ってこない……なんていうのは、一生に一度味わえば十分すぎる体験だろう。妹は泣き始めるし、弟はおなかが痛いと言ってうずくまる。誰の携帯にかけても通話中で、夜まで待っても誰も来ない。弟は今度は頭が痛いと言うし、妹は絶対に泣き止まない。あんな思いは、いや、本当にできれば二度としたくない。
あそこで叔父がたまたま家を訪れていなかったら、僕はいよいよ警察と消防に電話をかけていたことだろう。
駆けつけてくれた叔父……母の弟なのだが、彼は
そんなわけで今僕は、白銀のところに厄介になりながら教授という身に余る役職をやっているわけだが、それについてはあまり不満を感じてはいない。気心は知れているし、彼はあまり僕たちに干渉してこないからだ。放任というのともまた違うと思う。とにかく、本職が「便利屋」……いわゆる何でも屋である白銀は、他人の世話を焼くのがとても上手い。大の男にこんなことを言うのもアレなので本人には絶対に言わないが、要は、子供をあやしたりするのに向いている性格なのだ。
そんな恩人の白銀にも、そして運命共同体ともいえる弟と妹にも、僕は実は隠していることがある。
それは、父の手帳のことだ。
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