1「窮鳥と天才、あるいは安物なのにウザいくらいしっかりしたロープ」⑷
しばらく、ぼーっとその番組を見ていた。
内容はいつもの通り、ほとんど頭に入っては来ない。
やがて、なんの話題かわからないが、司会者がその年若い教授に話を振った。
「……さて、という意見が出ましたが、
「いえ……正直なところ、よくわかりません」
日理というその教授は、本当に困った、という苦しい笑顔で、こう言った。
「僕にできるのは、数学の問題を解くことだけなんです。他人の人生の問題を解くことまでは、さすがにできません」
「……」
なぜそこで、ひどい落胆を覚えたのか、自分でも説明ができない。
もしかしたら、無意識に期待をしていたのかもしれない。天才なら……それほどの天才であれば、自分の知らない方法で、スパッとこの自分のもつれた人生の糸も解いてくれるかもしれないと、自分本位な期待をしていたのかもしれない。いや、確実にしていたからこそ、がっかりしたのだろう。
しかし、そう思ってみても、がっかりした気分は消えなかった。
「……」
いつまでもだらだらとテレビなんか見ているから、こんな気分になるんだ。
そう思ってテレビを消そうとリモコンに手をかけた時、討論会場の若者の側の、最前列にいた男がいきなり立ち上がり、「それっておかしくないですか?」と発言をした。
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