1「窮鳥と天才、あるいは安物なのにウザいくらいしっかりしたロープ」⑵



「……」





 吊るしたロープをしばらくじっと見つめてから、俺は、息を吐いた。

 やっぱり、これはやりすぎだ。

「はぁ……」

 いくら人生がうまくいかないからといって、自殺するなんて、それはおかしい話だ。自殺はだめだ。絶対だめ。おばあちゃんだってそう言っていた。だから絶対だめなのだ。


 でも、なぁ。


「……」

 だったら、みんなどうして自殺なんてするのだろう? 



 

 他にすることもないので、部屋を見回した。




 普通のビジネスホテルの一室だ。テーブルの上にはミネラルウォーターとチョコレート菓子、床にはリュックサック。小さなテレビに冷蔵庫。俺にとっては、とても居心地のいい空間だ。けれど、だらだらここにずっといるわけにもいかない。

 だから、もうこんな暗いことを考えるのはよそう。頭がよくない人間が小難しいことを考えても、大抵ろくなことにならない。


「……最後に、テレビでも見るか」


 そう独り言を呟いて、俺はとりあえずテレビの電源を入れた。


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