序「ある少女の、ある日の日記」9
そのあと、その言葉通り「届け物」が届けられた。
チャイムが鳴ったので玄関に出ると、黒いジャージにワークキャップを被って、けれど爽やかな笑顔を浮かべた、高校生くらいの男の人が、小さめの白いダンボール箱を持って立っていた。
「どうも、こんにちは!」とにっこり笑われて、ついまじまじと顔を見てしまった。底抜けに明るすぎて、何かの病気なのか? と思ったくらいだったが、それは挨拶の時だけで、それからは普通に落ち着いた様子で喋っていた。
「君が××ちゃん?」と確認をされたので、頷くと、「予告の通り、『届け物』を配達に参りました」とダンボールを差し出されたので、勢いに押され、受け取ってしまった。……本当は、もう何もかもどうでもいいような気分になってしまっていたので、「これって何かの間違いでは?」とか、そういう当たり前の質問をしそびれてしまった、というのが正しいかもしれない。
……その届け物を開いてみるのに、実は、三時間くらいかかってしまった。
それはもちろん「箱が開かなかった……」みたいな物理的な話ではなく、気持ち的に、開けていいのか、これを開けてどうにかなるのか、開けて状況が悪化したら、と色々悩んでしまったからだ。受け取っておいて悩むなんて、後の祭りもいいところだったけれど、台所にいる母にバレないよう急いで部屋に荷物を持って帰って、一人になったら冷静になってしまって、考え込んでしまったのだ。
まあ、結局、開けた。
開けないと始まらない。そう思ったから。警察に持って行くことも考えたけれど、なぜだか、それは「裏切り行為」のような気がしたからだ。誰に対しての裏切りか……それは、私にもよくわからなかったけれど。
中身は、さすがにここには書けない。本当に友達とか(いないけどもしいたとしての話)、ましてや、親戚には絶対に言えない……そんなものだったし、いくら私しか読まない日記だとしても、なんだか、書きにくい。それに自分しか読まないのなら、別に書きたくないことは書かなくたっていいじゃないか。そうだ。これは私の胸の中にだけしまっておこう。しまっておけばいいのだ。
それに、こんな「もの」、どうしたって忘れない。
だって、これは、
私だけの特別な「切り札」だから。
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