序「ある少女の、ある日の日記」8



「そうか。じゃあ、今日の夕方ごろ、お前の家に『届け物』が届くんだが、それは受け取れそうか?」

「はい」

「お前が学校から帰って来て、確実に家にいることがわかってから届け人がチャイムを鳴らすから、よろしく頼む」

「はい」

「寄り道……は、しないな。お前はそういうタイプじゃなさそうだ」

「はい……」

 はい、はい、と答えているうちに、少しショックから頭が回復してきて、「届け物?」と、そこが引っかかって、何も考えずにボソッと質問していた。

「あの……知り合いのかたでしょうか」

「は?」

「は?」

 そこで、父親が「代われ」と低い声で言いながら受話器をひったくった。

「電話代わりました。××の父です」

 打って変わってにこやかで穏やかな声で、丁寧な言葉で、父が電話に向かってしゃべっている。が、その余裕な表情も、徐々に曇っていく。

「あの……声が遠くてよく聞こえないのですが」

 やがて、父はおもむろに電話を切った。そして「どうしたの?」と聞くまでもなく喋り出した。

「音が小さくて、こちらの声が聞こえてない。人を馬鹿にするのもいい加減にしろ! それくらい会社で管理しておけ!」

「あなたの耳が遠いだけなんじゃないの?」

「お前だってババアだろ〜」

「ひど〜」

 で、と父がこちらに向きなおる。

「なんて言ってた?」

「……最近、電話が調子悪いとかそう言うことないですか? って聞かれたのではいって答えてました」

 適当に、嘘をついた。

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