第17話:みんなでドゲザーしようぜ
土下座、土下座、土下座――。
柔道部の連中は全員でおれに土下座した。
「え? え? え?」
おれ困惑。
しかも玄関先である。ものすごく世間体が悪い。
おりしも通勤・通学の時間帯だ。いつ人に見られるかわかったものじゃない。
(参ったなあ)
困り果てたところに
「い、一之瀬さん」
一体なにが起きてるの? おれは途方に暮れて一之瀬さんに助けを求める。
そもそも柔道部とはたいして接点がなかった。
シイタケオというモンスターとの戦いでちょっと接触したくらいだ。
最初にシイタケオに挑んだのが柔道部だった。柔道部はモンスターとの戦い方に不慣れであえなく惨敗。逆にシイタケオの胞子にやられて操られる結果に終わった。
そのタイミングで到着したのがおれの仲間たち。
なかでも
退魔師の
なのに柔道部は謝罪に来た。
(なにを謝りに来たんだろう……)
という疑問もある。
なにより、なんでおれのところに?
おれは少し料理するくらいしか能がない。
シイタケオ戦でも後方支援を担当していた。
そのおれに、謝罪?
おれは重ねて一之瀬さんを見る。
一之瀬さんならなにか知っているのでは? と思ったんだが。
一之瀬さんは土下座したままの柔道部を眺めて一言。
「みんなでドゲザー(土下座)しようぜ、というわけですね」
はい。
一之瀬さんは今日も絶好調です。
ええい。話が進まない。
おれは柔道部に向き直った。
「とりあえず頭上げて? ね?」
「は、はいいいい」
ほんと、この人たち、どうしちゃったの?
とりあえず訳を聞く。
「すみませんでしたってどいうこと?」
「実は自分ら、山形派から京都派に移ろうと思った次第で。はい」
あ。そんなことできるんだ。
「それで?」
ちなみに山形派とは世界平和を目指す退魔師の集団。
そこに属する柔道部は、しかし世界平和が目的じゃないらしい。
あくまでモンスターの肉を求めてのこと。
ところが。
「モンスターを召喚するために魔はカロリーを
柔道部は少しずつ語気を強めてゆく。
「そんなカラクリがあるなら、もう、自分らは山形派についてゆくのは無理だなと。そう思った次第で。はい」
意外と正義感が強い。
世の中のカラクリにいきどおるって言ったらいいのか。そういう人間の目をしてる。
「それはわかったけど」
おれは一番気になっていることを尋ねる。
「なんでおれのところに?」
「あー、それはですね、ええ。実は
柔道部の面々がおれにすがるようなまなざしを向けた。
これから重要な話が始まる。
というところで一之瀬さんが割って入った。
「話が長くなりそうですね。140字以内でまとめてください」
むちゃぶりである。
柔道部はというと意外と素直に応じた。
「魔は、つまりですね、カロリーを搾取しているわけです。はい。なんでかって言いますとカロリーが不足しているんですよね、魔は。じゃあ魔による搾取を止めるには……魔を満腹にすればいいってわけです。はい。というわけで古宇さん、魔を満腹にする料理を作ってください」(124字)
「よくできました」
ぱちぱちぱち。
一之瀬さんが乾いた拍手を送った。全然、熱がこもってない。
それでも嫌味じゃないんだから黒髪ロング美少女はズルいよな。
それはまあいいとして。
(ううむ)
おれは腕組みしてうなった。
不満があるわけじゃない。
あるわけじゃないが。
(スケールがでかいよなあ)
最近、スケールがどんどん大きくなっている。おれのキャラとして、そういうのはちょっと。(困惑)
柔道部……まあ、悪いやつらじゃないのはたしかだ。
その柔道部はまだ言いたいことがあるらしい。ヒザを払って立ち上がった。
次いで紙袋を差し出す。
「これ、おわびの品です。古宇さんに使ってほしくて。はい」
なかにはセーラー服が入っていた。
え? なに? おれに着ろって?(困惑)
「これではございません! 間違えました! はい!」
柔道部が慌ててちがう紙袋と取り換える。
入っているのはシイタケだ。
「これって」
「はい。シイタケオの断片です。偶然、見つけたものでして。はい」
おれは一之瀬さんと顔を見合わせる。
「これで親父の」
「
一之瀬さんも興味を示す。
ここでおれたちの目的について。
おれの親父、
おれの目的は、おやじのがんを治すこと。
一之瀬さんは、いろいろ思惑があるみたい。が、おれの手伝いをすることと考えていいようだ。
だから、ふたりで同居という展開になってるわけで。
なんでもモンスターの肉にはがんを治療する効果があるらしい。実際、親父に食わせたところ目に見えて元気になった。
まだがんが消えたわけじゃない。
もっともっと食わせる必要がある。
それなのにシイタケオはこっぱみじんに。
肉を回収することはあきらめていたところだった。
(よし、こいつを親父に食わせるぞ)
一方で。
「早速調理してください」
「いや、いまから学校だから」
「えー」
あからさまに不満を示された。そりゃあ、モンスターの肉はめちゃくちゃ美味いわけだけどさ。えーって。子どもか。
学校へ行っても一之瀬さんはシイタケオの断片のことで頭がいっぱいのようだった。
「夕食が楽しみですね」
授業中でもメッセージが飛んできた。
正直、返信がめんどい。しばらく放置する。
気が付くと「……」というメッセージがたくさんたまっていた。怖い!
んで放課後。
「早く、早く」
一之瀬さんがおれの腕を引っ張る。グイグイと。1分でも早く帰宅したいのが伝わってくる。
これって彼女から帰宅即S●Xをねだられてるみたいだよな。
◆
殺人的な暑さ。
肺が
強烈にのどが
セーラー服は汗で透けて。
互いの汗の匂いが混じって。
時間のなかに溶け合う。
セミの声がやかましい。
目を転じればトタン屋根のバス停。
無意味に立派な道路を熱風だけが駆け抜ける。
暑いという感想しか出てこない。
夏が濃厚に香った。
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