第6話:一之瀬さんと寒いギャグ
バカ騒ぎが終わって校舎に入る。内履きをはいているときに声をかけられた。
強引な勧誘にあっていた女子生徒、
「さっきはありがと。と。助かりました」
「いや、いいよ。助けたのはおれじゃないし」
助けたのはこっち。おれは一之瀬さんを見る。
こちらは? は? 準理が説明を求める。
おれが説明しようとしたとき。
うおおおおお。雄たけびとともにだれかが玄関に駆け込んできた。
準理の兄・
再鉄は準理を見るなり抱き着いてほおずりする。
「おお、無事だったがー。お兄ちゃんは心配したべ」
方言丸出しである。
「校門のとごで準理が勧誘さ巻き込まっでるって聞いでなあ。
すりすり。
すごい可愛がりようだ。いつものことだが。
この再鉄という男、見た目はちょっと遊んでる兄ちゃんという感じなのだが、いろいろ残念すぎるのである。
対して妹の準理はいかにも嫌そう。
兄の抱擁をずっと耐えている。
ええと。おれは咳払いした。
「さっき校門で大活躍したこの子は
最後、一之瀬さんに確認する。当たり前だという顔で学校に来たものだから聞くのを忘れていた。
です。一之瀬さんは短くうなずく。
「退魔師の一之瀬です。よろしく」
「退魔師! 師!」
準理が食いついてきた。
「自分も退魔師になりたいと思っていたんですよ。よ。ただ、さっきは迷惑でしたけど。臭くて。て」
「おお、準理よお」
再鉄は準理を抱擁したままだ。
「おめはそっただごどすねくたっていいんだあ。お兄ちゃんが一生面倒みっからなあ」
ガスッ。準理の肘鉄が入った。
うぐぅ。再鉄は倒れ込んで悶絶する。
準理はキラキラした目を一之瀬さんに向ける。足元の重傷者(兄)には
「自分は準理っていいます。す。一之瀬さん、自分にも退魔師としてのあれこれを教えてください」
じゃあ、これで。で。まだ悶絶する再鉄をひきずって準理は去っていった。小柄だが意外と力持ちなのだ。積極性というか攻撃性を兄以外にも向けられれば、おれたちが助ける必要はなかったかも? などと思う。
おれは一応心配してみる。
「これから学校でやってけそう?」
「もちろんです。ホームルームに期待してください」
と言われた。
一体なにをやるつもりなんだ、と思っていたら……。
ホームルームを控えた教室はいつもより騒がしかった。話題は転校生について。初日から運動部をやっつけたのだから仕方ないと言えば仕方ない。加えて「すげえ美少女だったぜ」などと男子は盛り上がる。
いっしょにいたおれに好奇の視線が注がれていた。一部、敵意すら混じる。
(いっしょに暮してるなんてバレたらどうなるんだか)
つい自分の身を心配する。
思案しているうちに担任が一之瀬さんを連れてやってきた。担任はわざとらしく咳払いする。えー、みんなに新しい友達を紹介します。
一之瀬さんは教壇のわきに立って挨拶する。ぺこり。
「一之瀬です。
炸裂した。炸裂してはいけないものが炸裂した。
教室は静まり返る。
担任はアルカイックでスマイルな対応。え、えー。大変、個性的な自己紹介でしたね。じゃあ、そこの席に着いて。
ホームルームはいつもどおりに終わる。
そのあいだ、おれは気が気じゃなかった。
(ヤバい、ヤバいよ、一之瀬さん……)
んが。
ホームルームが終わると同時に一之瀬さんのまわりには自然と人が集まっていた。
「どっこから来たの? 東京?」
「そのチョーカー、いいね」
「退魔師って本当? ふだん、どんなことをするの?」
などなど。
質問攻めだ。
みんな、すっかり一之瀬さんを受け入れていた。
たぶん、転校生がどんな子なのか、みんな警戒していたと思う。運動部をやっつけるくらいの行動力、そして近寄りがたいほどの美貌。もし一之瀬さんがふつうに自己紹介をしていたら……。そっちのほうが怖いことになったかも。
一之瀬さんの寒いギャグで教室の空気が緩んだのだ。絶対に、計算してやってことじゃないと思うけど。
みんなに囲まれた一之瀬さんがおれに顔を向けて親指を立てた。グッ。
いや、グッじゃねえよ。
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