第13話 魔術書との融合
木の怪物であるエントを討伐するために林地の中を歩いていく番丁御一行。
しかし番丁の本来の目的はエントの討伐にあらず、もう一人の異世界人である長瀬咲が埋めた金貨数百枚という処にあった。
ただ番丁は初めて足を踏み入れた土地から金貨を見つけ出す事は困難であり、魔術書に金貨を簡単に見つけ出す呪文はないか探しながら読み歩いていた。異世界人という事でこの世界の言語を読める呪文はマゼンタにかけてもらっていたのだ。
「しかしさっきから樹海蜂が沢山出てくること……それに私しか倒してないみたいだし」
「仕方ないだろ? 僕は極力MPを消費したくないんだ、龍花も一撃がでかすぎてこの森林一体を焼け野原にしかねないしね、弟子の番丁は今呪文のお勉強中だ、故に君しか仕事をする人間はいないという事だ」
「何っ!? 弟子ですって、いつからあなたの弟子になったのよ番丁くんが!」
「何を馬鹿な質問を、あの時番丁が覚えたいのは魔法と言ったんだからそこからに決まってるだろ」
「それとあなたの弟子になる事の何が関係あるのかって言ってるの!」
またしてもテトラとマゼンタの口喧嘩が始まる、まあ無視でいいか。
魔術書は非常に便利だがページ数があまりにも多い。
活字離れした若者を代表して俺にこれを全部読むなんて事は不可能な話だ。
少しでも使えそうな呪文を探しだしたら今日は一旦休憩にしたいが。
「第一今日は番丁の威圧感が全く感じられないと思うんだけどね、それが原因なんじゃない?」
責任を擦り付けてくるのはマゼンタだった、あの怯え方から押さえてやったというのにお前達ときたら……。
「ったく仕方ないな、これでどうだ?」
「す……凄い、いつの間に威圧値をコントロールする呪文を手に入れたんだ番丁は」
「番丁には誰も敵わない……」
これが呪文ね~、そんな呪文があるのなら真っ先にマゼンタに教えてもらいたかったが。
ページを捲りながら森林の中に進んで行くと、必要としていない呪文ばかりの中から一番自分に必要と思われるものを発見する。
呪文名『融合フュージョン』
『この呪文が発動される術者はまず始めに甲と乙を決める権利が発生する。甲は物でなければならず、乙もまた同文である。甲の姿は変わらず乙の姿は甲に変えられ、甲は乙が持ち合わせている全ての性能を手に入れる事ができる。乙は複数でも可。』
これだ! 今俺に必要な呪文は、わざわざ一ページずつこの魔術書を読み進める必要はなかったのだ。
いや、この呪文は一つでは成り立たない、五十ページ前と三十ページ前に確かこれに相性が良い呪文が存在した筈だ。
呪文名『呪文ずらしスロースペル』
『発動条件:この呪文を唱え、即時に他の呪文名を唱える事。その呪文は三十秒後に発動される。』
呪文名『幻想変化チェンジリング』
『対象者の姿形を想像した物に変える呪文、ただし人間に変える事は不可。対象者は60秒後元の姿に戻る。』
人間に変える事は不可、つまりここに明記されている事が事実なら対象者は完全に物に成り代わる事いう事だ。
「どうしたんだい番丁? そんなぼーっとして、良い呪文でも見つけたの?」
「まあちょっとな、マゼンタ、この魔術書持っていてくれ」
「ああ、別にいいけど」
マゼンタに魔術書を持ってもらい、杖を持ちイメージする事に集中する。
呪文ずらしは物になった状態じゃ使う事ができない、杖が持てないのだ。
だからこそ早いイメージが今必要、杖を本に向け、まず第一の呪文を唱える。
「呪文ずらしスロースペル!」
次のイメージだ、まず最初に決めるのは甲が自分、そして乙が魔術書とこの杖だ。
いや待てよ……人間にこの呪文が使えないのなら俺をイメージするのは違うのではないか、くっそ……なんでもいい! 乙が魔術書と杖、甲はコーラーだ!
「融合フュージョン!」
「融合フュージョンだって!? 一体何を考えて……」
マゼンタが驚嘆の声を上げていたが今はそれに反応している時間は無い、次に唱える呪文は俺自身の姿を変える事にある。急がなければ杖がどこかのコーラと融合してしまう。
「幻想変化チェンジリング!」
杖を向けた方向は俺だ、果たして自分で唱えた魔法が自分に効くかだが。
意識が飛んだ、成功したのか?
ここから見える先はマゼンタと龍花のパンツ……しかし黒いものがシュワシュワしててうまく見る事ができない。
いや成功したのか、俺の姿は今コーラにになっているのか。
しばらくするとスタスタとパンツが見えている事も知らないであろう龍花が歩いて近づき、ジーッとこちらを覘いていた。
「何これ……中で爆発してる……」
「飲み物なんじゃないかな? 番丁くんの事だしきっと異世界の飲み物を出してくれたんだわ!」
ち、違う、頼むから飲もうとするな。
一方でマゼンタは「くすくす」と笑いながら龍花とテトラの反応を楽しんでいた。
あの野郎め、あいつだけがこの呪文を知っている筈なのに何故止めようとしない。
「プシュッ」
炭酸が開けられる音がした、俺の頭、いやキャップが取り外されたのだ。
待て、飲むんじゃない、それを飲めば俺が俺で無くなってしまう……。
しかしその時だった、発動してから30秒、呪文ずらしスロースペルが発動され、魔術書の知識がコーラの姿をした俺に注ぎこんでくる、成功だ。
多分今の俺は世界一強いコーラって処か、いや言ってる暇はないな。
龍花とテトラがコーラの俺に興味津々になってる間に早速融合して得た上位魔法を使わせてもらおう。
「……(幻想変化改チェンジリング改!)」
しまった……今は声がでないのだ、いくら杖と融合したとはいえ言葉に出さなければ発動しないという条件は同じか。
「はははっ飲んじゃ駄目だよ、それは番丁だ」
「これが……」
「番丁くん?」
ようやくマゼンタが弁明をしてくれたみたいだ、これでなんとか命は助かった。
「でも番丁がどんな味の飲み物かは気になるよね~」
こいつの冗談は冗談になってないものばかりである、とはいったものの60秒が立ち無事元に戻る事ができた。魔術書の中身はちゃんと頭の中に入ってある、これで成功と言ったところか。
「いやーまさか魔術書と自分を合体しちゃうとはね、考えてもみなかったよ」
「でもお前は魔法の勉強に熱心そうだしこういう楽な手段は好まないだろ?」
「まあそうだけどね~、それで何か覚えた魔法を試してくれるのかい?」
「ああ、ちょっと探し物をしててな」
魔法をイメージする必要はない、いや勝手に脳内に想像されたものが注ぎこまれるのだ。
「探し物サ―チング!」
浮かび上がる、大量に埋められた金貨の像が。
ここから500m先、もうすぐそこだ。
「何も言わず着いてきてくれ、お前達に見せたいものがあるんだ」
「別にいいけど」
「囲まれてるね僕達」
テトラとマゼンタが言うまではダークエルフの存在に気付かないでいた。
10体といった処だ、弓矢を引き延ばし今にも俺達を死に追い込める好戦的な状態にある。
龍花が戦闘態勢に入っていたが、右手でそれを制する。
彼女が戦えばこいつらを殺す事になるだろう、それに敵を痛める魔法を使うには丁度いい機会だ。
「何用だ貴様ら、今すぐここから立ち去れ」
「待ってくれ、戦うつもりは俺達に無い、少しの間だけここを通してもらう訳にはいかないか?」
「そういう訳にはいかないな、話す気が失せた、お前達! 弓を引け!」
ダークエルフは弓を最大限まで伸ばしそれを放った。
その間にわずかでも呪文が遅れたら本当にあの世送りになっている処だろう。
さっきも言ったがイメージする必要は無い、求めれば魔術書が全てを提供してくるように囁くのだ。
「重力波グラビティブレイク!」
呪文を唱えた途端弓は四方八方に飛び交う、しかしその前に彼らの姿はその場に無かった。
それぞれが真後ろに吹っ飛び、遥かに遠くにへと消え去ったのだった。
「大丈夫だ、殺してない」
「凄いぞ番丁、もうこんなに上達を」
消えたダークエルフは後にし、俺達は金貨の元にへと向かった。
魔法の10分の1は予想以上に多いものだ、敵がいくら強いからといっても負ける気は少し足りともしなかった。
番丁達の数百メートル先には金貨が埋められていた、しかしそれと同時にそれを守るエントも一緒にいる。
エントは暴走すると誰も止められる者はいないくらい強く、この森を縄張りとしていたダークエルフですら彼の暴走を止める事は困難な事なのだ。
しかしそんな場所に一人の少女が現れた。
それは自然、神ですらも抗う事ができるもう一人の異世界人、長瀬咲である。
「さて、あなたにこの金貨を守らせるようにしたはいいものの、それくらいのレベルじゃダーリンと黒龍に勝てる筈もないわね、ステータスをちょっとばかりいじらせてもらうわよ」
「ぐおおおおおおおおおおおお!!!」
「これくらいでいいかしら、ふふっ、それじゃあ頑張ってねダーリン♪」
最弱最凶の一般人 コルフーニャ @dorazombi1998
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