第12話 初クエスト、エント王討伐


 世界の10分の1の内容が書かれていると言われていた魔術書だったがその内容はあまりにも複雑。


 1部分思い描いて繋ぎ合わせる詠唱とは打って違い、それを圧縮してまとめた魔法には莫大な集中力が必要だった。


 少しでも集中を掻き乱せば失敗が待ち受けているのは肌で感じる。




「まあある程度は教えたかな、基礎的なものは全部叩きこんでおいたし後は魔術書を見て自分で応用してね」


「案外冷たいんだな」


「そう言うなって、僕だって君のそのLvに比べられたらまだまだ未熟な魔法使いだ、それにそんな大層なMPも持ってないからね、優秀な魔術師かは魔力系にステータスが多く振られる事が前提だけどステータス振り分けなんていう卑怯っぽいスキルを出されちゃかなわないよ」


「そうか、MPは今のでほとんど使い切ってたんだった」


「2460だろ? これを飲めばすっかり回復さ」




 渡されたのは大きいビンに赤色で炭酸のように細かい泡が浮き上がり弾けている飲み物だった。


 やけに怪しいが匂いは栄養ドリンクのような甘さがある。


 まあ今更疑う必要性も無いのだが、マゼンタから渡されたドリンクを一気に飲み干す。


 あの炭酸っぽいシュワシュワは喉で程よい心地に弾け、決して邪魔はせず、むしろ美味しく全て飲み干す事ができた。




「ぷはあっ! 回復していくぞ! 力が!」


「僕はそんなMPを持っていないからね、丁度使い処が無かったから使えてもらってよかったよ」


「ああ、サンキューな、借りはきっちり返させてもらう」




 するとマゼンタは素っ頓狂な顔をした後、少しずつ笑い始め大爆笑にいたった。




「はははっ、おいおい何を言ってるんだ番丁、君はお金なんて一銭も持ってないだろ、でも付けにするっていうのなら期待して待ってるぜ」


「ははっそうだな、いつかギャンブルにでも勝って君に返そう」




 本当は例の金貨を言っても良かったが、あの金貨が沢山埋まっている場所をまだ特定できた訳じゃないのだ。


 俺はそういうのにとても慎重的である、失敗したら嫌だからね。


 こうして朝のマゼンタの講義は終わったのだった。


 その後俺達は龍花と二日酔い気味のテトラを起こし、クエスト依頼のできる集会所にへと立ち寄ったのだった。




「さて、どれにしようかしら……」


「エルフなんてどうだ? 異世界から来たしあの架空上の生物を一度でも見てみたいと思ったり……」




 やけに下手な芝居だったがまずはあの場所を特定する必要がある。


 情報と言えば木を切っていたエルフ、それに動いていた木と言ったところだろうか。




「なんだ、番丁が住んでた場所じゃエルフっていなかったんだね、でも闇のエルフと光のエルフは別々に住んでるからね」


「多分その闇のエルフって奴だ俺がみたいのは、それに動く木も見たかったりしてな~」


「多分? まあいいか、動く木が見たいっていうのなら丁度いいクエストがあったね」




 マゼンタが掲示板に手の平を載せた紙に書かれていたのは『エント王の討伐』というものだった。




「でも番丁君はエルフとエントを見たいんでしょ? 討伐なんて」


「いやそれで良いんだ、見れる保障があるなら丁度いいから受注してもらって……」


「いや待って……これって……」




 画鋲に張り付けてある紙を両手に持った瞬間テトラの表情は青ざめていた。


 最初に提案を持ち出したマゼンタですら、彼女の表情を見てよく分からないような顔をしている。




「一体どうしたんだい? そんな驚いたような顔して」


「そりゃあ驚くに決まってるでしょ! SSクラスよこのクエスト! 第一なんでこんなクエストがこの掲示板に!」


「テトラ様がこの街に帰ってきたと聞いたからです、早速その紙に目をお付けになるなんてお仲間もお目がお高いですね」


「いや~それ程でもあるかなー」


「褒めてない! 絶対ダメでしょこんなの!」




 表情にわずかな笑みを浮かべて語りかけてくる受付嬢、確かに俺達が入ってくる時やたらこっちを見てくるものだと思った。


 焦る様子のテトラと余裕の表情で押し通そうとするマゼンタ、またしても彼女達二人の喧嘩が始まる。


 まあ確かにテトラの言い分は最もなものではあったが、場所を指定したのは長瀬咲だ。


 彼女を信用した訳ではないが、俺達でも十分突破は可能だと見越しての事だろう。




「いやここは行こう、ステータスはある程度は上昇した、俺が足を引っ張る事も無い」


「そうだよ! むしろ頼りなのは番丁なのかもしれない! 全ての破滅ゴッドブレストを実際目の当たりにしてる僕が保障するよ、それに君にやられた黒龍だってそこにいる訳だよ?」


「そ、それもそうだけど……でも確かに火と木ならこっちの方が相性は有利って事かしら」




 悩んだ末なんとかテトラは納得して受付嬢にカードを提示しようとした。


 なんとか第一関門は突破という処だろうか、今回はマゼンタに感謝って処だな。




「分かってくれてよかった、後は君のゴールドギルドカードがあれば僕達は無敵のパーティだからね」


「むかっ! 心外ね、私がただの高ランクを受けるためだけの要因と思われていたなんて」


「そんな事別に思ってないよ、ちょっと君気にしすぎなんじゃないかな?」


「そういう風にしか聞こえなかったから怒ってるんだしょ! 第一あなたいつも一言多いのよ!」




 また喧嘩が始まった、これはマゼンタが悪いな……。


 ほとぼりがなんだかんだ冷めた処で結局エントの元にへと行く事になった俺達は森林の中にへと入ってゆくのだった。




 木の棒は懐に収めてあるが、流石に魔術書は分厚すぎるため魔の鍵扉エンターの中に閉じ込めてある。


 街を歩いていく中で魔法使いらしき者達の恰好が身軽なのも頷ける訳だ、やたら便利な魔法である。


 まあ俺達自体テトラが小さいポーチを腰につけている以外は、誰も荷物を背負っていないので身軽と言えば身軽なのだが。




「そう言えば龍花、君今日やたら静かだね? 子供っぽいんだから元気あった方が子供っぽくていいと思うぞ」


「うん……」


「龍花ちゃん何かあったの? ひょっとして私達が番丁君の近くにいるのをあまりよく思ってなかったり?」


「そうじゃない……」




 問い詰めてるマゼンタとテトラだったが彼女達が疑問に感じるのも納得できる。


 確かに今日は朝から龍花の様子がおかしいと俺も思っていた。


 しかし子供なら誰だって大人の会話に交われず無口になる事はある筈だ、別に俺もこういう時に喋りたいと思った事もあまりないし適切なのは放っておくのが一番だと思うんだけどな。




「番丁……隠してる事あるでしょ……? 言ってくれないの……?」




 とんでもない火の粉がまさかの俺に降りかかってくるのだった、確か彼女は俺の記憶を覘いた事があるのだ。 


 だとしたら今日の出来事も全部ばれて、しかし決して金貨を独り占めしようとしているのではなく皆を驚かそうと、でも今言ったらそれはそれで凄い疑われそうだしな。




「まあいい……」


「「えええ!!! 良くないよ!!!」」




 とんでもないタイミングで一言一句ハモるテトラとマゼンタ。


 こいつら本当はめちゃくちゃ仲が良いんじゃないかと疑いたくなるレベルである。

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