第8話 最凶敗北。絶対的な豪運を持つ少女

 ルーレットが始まったその局面、80連敗というその記録は止まり流れは彼女に傾いたような気がした。その倍率1/37、彼女は当然のようにディーラーからストレートアップである36倍の3600金貨をもらい不気味な笑みを作っていた。


 そして何より驚いているのは周囲にいるギャンブラー達である。隣にいる彼女以外は俺と一緒でブラックに大量の額を張っており、何が起きたのかが当然理解できないような表情であり、テトラに関しては酔いの気持ち悪さも溢れだしてきたのか顔全身が青ざめてきていた。




「これでも意地を張る気かい? 言っとくけど確率なんて運の傾きでいくらでも変えれるのさ」


「一回勝っただけで調子に乗るんじゃない! 37分の1だろ、適当に賭けて出てもおかしくない数字だ!」




 俺は負けじと再度ブラックに銅貨10枚を賭けた、そして彼女が賭けたのは賭け金が金貨100枚のレッドの1とまたしても上限いっぱいの一点張りである。




「そう何度も数字が当てられてたまるか、これは決して運否天賦のゲームなんかじゃねえ」




 しかし出た出目はまたしても彼女が賭けたレッドの1、3600金貨をもらい終始余裕の笑みをしている彼女である。




「言ったでしょ? 私も実質負けなしだって、それにあなたが今まで勝っていたのだって、これから負けるのだって私が仕掛けた運命ってものかしら」


「下らん! 次こそは俺が絶対勝つ! 確率的に考えてそう大蛇に何回も出てこられてたまるものか」




 再び俺は銅貨20枚をブラックに賭けていた、周りの連中はこの流れに違和感を持つ者だけ意地を張り俺と一緒のブラックに賭けていたのだが、それはテトラもまた一緒である。




「フフフッ、あなたはどうやら意地になってるみたいだけど皆素直よね、周りを見てみたらどうかしら」




 確かに皆頭の回転が早いのか、8割くらいのここにいる連中は彼女と同じ数字に賭けるか、レッドを賭けるかのどっちかだった。しかしそれでも俺は信じたいのだ、長年探して見つけ出したこの必勝法が完璧である事を。


 ルーレットの玉は回った、誰も出目の結果が分からないくらいの速さでグルグルと回っていく。 


 そして玉が止まる瞬間だった、カランコロンと中に入りそうになったその先はブラックである。




「いけえええ!!!」




 しかしその勢いは止まらず、球はブラックの中に入ったものの跳ね上げ、止まった先はなんとレッドの1。


 これで彼女は数字を的中させたのが連続3回、周りも異変に対してザワつき始めていた。


 それからも彼女の勢いは止まらずに次回ったルーレットも見事に的中させ4連勝。


 テトラと俺以外はほぼ彼女と同じ数字に賭けていたためその場は歓喜に溢れかえっていた。




「何かがおかしい……何故そんなに勝てるんだ……」


「さっき説明した筈だよ~それが運命だって、運に抗えるのはその運を遥かに凌ぐ運を持った力しかありえない」




 しかし俺はその言葉を目に受けずディーラーの顔を見た。強面の男性は何故さっきから彼女がこうも勝ち続けているのに焦る様子を見せないのだろう。今までゲームの世界でしかギャンブルはやってきた事が無かったため絶対にそれはあり得ないと思っていたがこうも当たりを出されちゃそれしかありえない。


 こいつらは……こいつらは確実にグルだ、イカサマをしている。




 残る銅貨は115、そして何より問題なのは次に80を賭ける事によってマーチンゲール法は崩れる。そんな事になるくらいなら俺はこの勝負に全てを賭けたい。


 もし中に磁石を仕込んでいるのだとしても数字の中まで引き寄せるというでたらめな事はできないだろう、だったら考えられる可能性はディーラーの凄腕それのみだ。


 もしその腕が繊細ならば繊細な程揺さぶる事は容易である。


 この世界に来てからはこの個性に感謝する事しか起きないな。




「な、なんだ……急に寒気がしてきたぞ」


「ひいいいいいいいいっ!!! だ、暖房を付けてくれー!」


「お、お、落ち着け! い、今は夏だぞ!」




 被っていた仮面を取り、テトラとディーラーも含めたギャンブラー達の様子が如実に変化を表している中、隣にいるイカサマ少女だけは笑みを消す事無く余裕の表情で金貨100枚をレッドの1に賭けるのだった。




「そこはさっき賭けた処だぞ、本当にいいのか?」


「勘違いしちゃうのは仕方ないよね、玉がどこにいくか私が分かってるんじゃなく、私の賭けた処に玉は止まるようになってるんだよね」




 ほざいてろ、もうすぐお前のその笑顔をぶっ潰してやる、同じ場所に賭けようがもう磁石の効力は無意味なんだよ。




「銅貨115全部このブラックに賭けるぜ、早く始めてくれ」


「あ、ああ……」




 やはり効き目ありだ、彼女が何故この威圧値が効いていないのかは知らないが、ディーラーに効き目があるならそれだけでこっちのものだ。他のギャンブラー達は俺の威圧感が効いたらしく賭けている者がいない、このルーレットは俺と彼女のみのバトルとなった。万が一外したとしても彼女の狙った数字にさえ出なければ実質俺の勝ちってもんだろ。


 手が震えたディーラーが玉を回す、今の震えからして到底狙った位置に出せるとは思えない。




「いけっ!」


「ふふっ、ねえ、面白いものみせてあげるよ」


「えっ?」




 ポーン!


 突如として鳴ったルーレット内にある音は軽い玉が宙に弾かれる音だった。


 そしてその玉は宙からゆっくりと落ちていき、三回跳ねた後でその位置に止まったのだった。


 レッドの1にへと。




「嘘だ……こんな事が……」


「これであなたの軍資金は尽きたよね、とはいっても全部テトラちゃんにもらった金銭か」


「なんでテトラの名前を、お前一体何者なんだ……」


「私は運が良いんだよ、だからこそ君達と会ってなくても君達の名前が手に取るように分かる、また会おう吉木番丁君」




 彼女はディーラーから金貨3600枚をもらうと去っていった、威圧感から解放しようと仮面をつけたが疲労が蓄積したのか、ギャンブラー達は一歩もその場から動けそうになかった。




「もう辞めだー! 赤字だ赤字! お前ら全員出ていけー!」




 怒声を上げたのはディーラーである、彼は震えながらもルーレットを続行していたため余程の威圧値が振られているのだろうと考えられる。




「帰るかテトラ」


「うう……またお給料無くなっちゃった……」


「俺のせいでもある、しかしあいつ一体何者だったんだ」




 俺は酔っぱらったテトラの腕を首に回し、ゆっくりと宿舎に戻っていく。彼女の大きい胸が体に密着していたがそれは仕方がないだろう、それよりも今は負けの余韻があまりにもでかすぎる。




「こんばんは、番丁くん」


「お前はっ!」


「あなた達にはまだ名前を言ってなかったよね、私の名前は長瀬咲、人よりほんのちょっぴし運がいいからギャンブルに勝っちゃったけどイカサマじゃないから安心してよね」


「ナガセ・サキだと!? 運が良かったというだけで魔族を滅ぼした伝説を持つ異世界から来た女……」


「滅ぼしてはいないんだけどね、でもあの人達から喧嘩を売ってきたものだし、私ももう少しここで長生きしたいし、この世界でも正当防衛ってあるでしょ?」




 ナガセ・サキ……? 確かあの『DOMINO CASINO』に入る前、テトラが語っていた運の値が遥かに高いという少女。だからあのルーレットであんなでたらめに玉を飛ばしたり数字を当てたりする事ができたのか、両方ともゲームじゃ絶対に起きないような出来事ばっかりだった。


 名前からしてこいつも俺と同じ日本人なのか、でも顔はここの異世界人と言われても特別違和感はないのだが。




「そうだよ私がその長瀬咲、あのルーレットは確かに私の運が招いた出来事ばかりで現実的にありえないよね、それに生前はあなたと同じ日本人だよ、顔はだね~あまり目立つのも嫌だったもんだからイメージチェンジしたかな」


「お前どうして俺の……」


「考えてる事が分かったかって? 皆には決して分からないと思うけど運が良かったらなんでも勘でできちゃうもんなんだよ、私が幸運と思うのならここに巨大プリンを落とす事だって可能だよ」




 んな事が運でできてたまるものか……って今喋ってる心の声も彼女に見抜かれてるんじゃ……。




「番丁君は運を軽視してるみたいだけど君をこの異世界せかいに呼んだのだって私だからね」


「何を言ってるんだ、俺は不良達に殺されてだな」


「それも申し訳ないけど私が違和感の無い死に方を選んだから起こった出来事だよ、それに君と同じこともできる」


「俺と同じ事って……うっ!?」




 彼女から放たれる禍々しいオーラは辺り一体を飲み込むような、まさに化け物から感じ取られるものである。しかし俺が放っていたのはこんなにもえげつない者だったのか、それに初めてだ……。こんなにも死にたいと思ったのは、意識が今にもぶっ飛びそうだ……頭が痛い。




「これが威圧値1億、そして威圧値1億1000万」


「やめてくれえええええええ!!!」


「ハイお終い、これで分かったかな? 運の凄さがね、運が高ければ何でもできちゃうんだよ」


「そんな事どうでもいい、教えろ……何故お前は俺を異世界このせかいに連れてきた、そんなに高い威圧値を出せるのなら尚更俺がいなくてもよかったんじゃないか」


「ん~それはねー秘密かな」


「なっなんだと」


「フフッ、でも異世界から見る君はとてもかっこよく思えたんだよ、本当だよ? そのかっこよさが目的であって威圧値なんて別に興味ないかな」


「俺がかっこ良い?」


「いくら運が良くても恥ずかしい事はあるんだよ、でもあなたも分かった筈だけど私の作り上げた運命からは決して誰も逃れられる事ができない、そして私はいつかあなたを絶対自分のものにして見せる、それじゃあまた会おうね番丁くんにテトラちゃん」




 終始彼女が何者だったか分からないままだったが、異世界から来たという謎の美少女長瀬咲。


 彼女は何故か最後に頬を赤らめながらその場を去るのだった。


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