第7話 異世界カジノ 勝率100%、地獄のマーチンゲール法改


 異世界カジノ『DOMINO CASINO』、それは上限無しの青天井勝負ができる公営ギャンブル店らしく町のど真ん中にその建物はどっしりと構えていた。テトラと俺はカジノ店に入ると、テトラは出し惜しみもなく銅貨100枚を俺に渡してくれた。




「ところで番丁くんはカジノのルールってわかるのかな? 有名処はスロットにブラックジャックにバカラまであるけど」


「ああ大体は分かるぞ」




 俺は握った銅貨100枚を絶対にプラスにする自信を持っていた。


何故なら100枚の銅貨がたった今俺の手の平の上に置いてあるからだ、俺がマイナスの収益になる事はまずあり得ない。


 そうこう考えてるうちにテトラはスロットの席にへと座っていた。


 確かにスロットも娯楽目的のお客様になら十分楽しめる代物かもしれないがこっちは儲ける事が目的なのである、ブラックジャックもスロットも魅力的ではあるが勝つためならまずはバカラから始めようか。




 バカラの簡単なルールをここで説明しておこう、簡単に言えば9に数字が最も近づいた方の勝ちで、バカラ内の数字は9が上限なのである。10以上の数字が出た場合は0に変換されるのだ。


 そして賭ける場所はPLAYER側、BANKER側の二つだ。


 だがPLAYER側の数字が多ければ俺の勝ちという事もなく、俺自体はPLAYER側にもBANKER側にも両方賭ける事が選択肢があるのだ。配当はPLAYER側は2倍、BANKER側は基本手数料コミッションが引き抜かれる事になる、例えば手数料が5%の場合100銅貨を賭けて勝ったとしても95銅貨しかプラスされないのだ、そこらへんは複雑なのである。


 後は同じPLAYER、BANKER同じ数字が出た場合はTIEである。




 大体のルールはこんな処だろう、バカラの席は美味しい事に35席あるみたいだ。


 何が美味しいかって? 俺は観察を怠る事は決して無かった、このバカラには罫線という今までBANKER側かPLAYER側のどちらが勝ったかという記録が存在するのだ。


 そして俺が見逃さないのはBBと二つの罫線が重なった時だ、BはBANKERのBであり、PはPLAYERのPである。即座に俺はその席に座った。




「さあお賭け下さい! 皆さんが幸運である事を祈っています」




 営業スマイルを欠かさないディーラーの姉さんに釣られて額を張っていく者達。


見たところ銀貨5枚や、金貨2枚など俺がいかにも場違いかのように思える賭け額である。


 しかし俺は銅貨一枚すら賭けるつもりが無かった。


言っておくがカジノの世界は運否天賦じゃなく確率で全ては動いているのだ、イカサマさえ無ければな。




「お客様、お賭けにならないのですか?」


「うーん、まずは様子見かな~」


「はあ……」




 俺もゲームでしか試した事がない必勝法だったが、こんな客実際にいると邪魔なだけだろう。


 案の定ディーラーは優しい笑顔の裏にチラチラ俺の方を見て『なんだこいつ』的な微妙な表情も含まれていた。だがこれもすべては勝利のため、仕方がないのである……。


ディーラがカードをめくるとBANKERが勝利した、そして罫線はBBBと並ぶのであった。




「ここが正念場だ!」


「はあ? 何が正念場だよ! てめえ銅貨5しか払ってねえじゃねえか」


「はあ冷めるよ、貧乏人と一緒の席で賭けなきゃならないなんて、僕ちん席移動しちゃおっかな」




 俺は銅貨5枚をPLAYER側に置いたがこの席に座っていた客人達からはブーイング喝采だ。まあ確かに銀貨や金貨を手軽に賭けられる奴からすれば貧乏人に見えるのだろうが、こっちは100%の必勝法で勝ちに来てるのである。




「では始めます」




 ディーラーのお姉さんも客が減ってなんとも言えない笑みを作っていた、少し申し訳ない事をしたな。


お姉さんがまずPLAYER側にKキング、そしてBANKER側にQクイーンを引いた。


 この時点では両方10を超えているため0と0である、そして次にPLAYERが引いたのは8だ。




「キッキタ!!!」


「5ドルの癖に必死だな」




 横で野次を飛ばしてくる客は放っておいてだ、ここで9が出れば俺の負け、8が出ればTIEで引き分け、それ以外が出れば全て俺の勝ちだがそう簡単に8と9が出る事なんてある訳がない。


 ディーラーが引いたのはスペードの3だった、PLAYER0+8で8、BANKER0+3で3、つまりPを賭けた俺の勝ちである!




「よっしゃあああ!!!」


「そんなに喜ぶかね……」




 ディーラーさんも横の客も少々俺のリアクションに対して引いていたが、俺はなんとか無事初勝利を掴める事ができた。何故俺がPLAYERに賭けたかというと3回もBANKERが勝っていたのだから次はPLAYERが勝つだろうという単純な予測からである。


 しかし俺の必勝法はこんな大した事が無い訳ではない、第一このやり方では負ける可能性があるし欠点が多い。


 それから運よく3回程一発で勝てた処で、4回目にしてBに負けた俺は初めて銅貨5枚を失うのだった。




「さあ賭けて賭けて! いっぱい賭けてくれたら俺の給料上がるから頼むぜいお前達」




 今度のディーラは腕っぷしが太い全身筋肉だらけの髭面の親父だった。


何故かそこには他の席よりも多くの客が座っていたが、俺はそこで負けた額の倍である銅貨10枚をBに賭けるのであった。ディーラーの親父がめくったのはPが3、そしてBが5、この時点ではBが有利だが……Pが次は5、Bが次は6。PLAYER3+5で8、BANKER5+6で1、つまりPLAYERの勝ちで俺の負けだ。




「兄ちゃんよぉ~そんな小さい金を細々かけてるから負けちまうんだぜ?」




 やかましい、俺にはまだ必勝法があるのだ。


今に勝っててめえの給料銅貨5枚分を減らしてやるぜ……とは口に言えず黙々と銅貨5枚を再びBANKERに賭けるのだった。ディーラーの親父はPが2と6、Bが3と6で8対9で奇跡的にこの場を制する事ができた。




「よっし!!!」




 なんとか勝つことができた、俺が勝てたのも全てこの必勝法のおかげなのである。


ところで皆さんは『マーチンゲール法』というのをご存知だろうか、俺の今やっている行為こそが『マーチンゲール法』、否、マーチンゲール法改なのである!


 本来のマーチンゲール法は莫大の資産を持った客人が1ドルずつかけて負けたら2ドル、そして次に負けたら4ドル、また負けたら8ドルと倍々ゲームで確率が圧倒的に低くなるまで倍ずつ金銭を賭け続けていくのだ。どこまでいっても銅貨五枚しか返ってこないのが難点だが、この必勝法にも弱点が存在するのである、それが……。




「ああああああああ!!! お金が全部溶けたあああああ!!!」




 彼が負けたと言っている罫線を見てみようか、BBBBBBBBBと9回ものBANKERが続いていたのだ。故にこのバカラでは資産が尽きるか連鎖が止まるかの二択しかないのだ、二分の一の運否天賦な勝負という訳ではない。


 そしてその連鎖を警戒したのがこのマーチンゲール法改である。


 このマーチンゲール法改は先に連続して3回同じ勝利者が出た場合の逆に賭けるのがやり方である、なんせマーチンゲール法の唯一の穴は大蛇だいじゃなのだから、これを唯一防げると確信したのがこのマーチンゲール法改なのである。もしBが6回出たとして賭けていたとしても銅貨5枚賭けているとして失う額はたったの5+10+20でたったの35枚なのである。


 引き際を間違わなければリスクも少ない、これがこのゲームでかつて師匠だった人のお言葉なのだが。


 こうして俺は勝ち続けた、ギャンブラーにとって一番大事なのは焦らない事だ、確かに負けもしたが順調に収益はプラスになっているのである。




 そして銅貨が185になった時だ、青天井のルーレットが行われているという事で俺はその席に着いた。大した銅貨が無いのにも関わらずこの席に着いたのはこの勝負に逆神がいるという噂を聞いたからだ。そして隣にいる彼女がそうなのだが、なんでもこの勝負で80連敗、賭けているプレイヤーは全員彼女の逆側を選べば絶対に勝てるという神システムなのである。


 そして大勢の客がこの席で賭けている中、離れた席にはテトラもちゃっかりと座り金銭を賭けてこちらに手を振っていた。


青天井なのだからこの席には大量の椅子が置かれていたのだ。




「あなた、その仮面は」


「ああこれか、威圧値があまりにも多いもんだから皆に付けろって言われてるんだよ」


「ふーん」




 驚く事に逆神に声をかけられた、まさかこれで俺の運も下がるって訳じゃないだろうな……。




「なるほどね……あなた次私と同じ処に賭けてみない? 勝たせてあげるわよ」


「はっ!?」




 彼女から出た言葉は想像もつかないようなものだった、勝たせてあげるだって、逆神と同じ船に乗るなんて泥船に決まってんだろ、それに運がいい事にレッドが3つ揃っているのだ、俺は逆のブラックに賭けるに決まっている。ちなみにバカラと同じでルーレットもブラックとレッドの両方に分かれているのである。




「生憎だったがお嬢さん、俺は実質今まで一回も負けていないんだ、だから俺はあんたの逆に行く事にする」


「ふーん……」




 仮面越しから見る彼女の笑みはとても不気味なものであった。


彼女はまるでこの勝負に絶対勝てるという自信が奥底から表に溢れ出しているような表情を俺に見せていたのだ。惑わされるな……絶対にこの勝負は俺の勝ちだ。




「奇遇だよね、実は私も実質負け無しだったのよ」


「っな!?」




彼女が置いたのは俺と逆のレッドの16、掛け金は金貨100、青天井においての限界である満額である。




「正気の沙汰じゃないだろお前……」




「だって勝つもん、あなたには一回も勝ちを譲りたくなくなったわ」




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