第5話 戦士を選ぶか、魔法使いかの二択

 ユニークスキルを持っていた事で手に入れたステータスポイントは自分で一から振る事ができた。

そして今ここにいるお転婆な魔法使いソーサラーと戦士ウォーリアが揉めているこの状況下において選べる職業はどうやら二択である。まあ確かに魔法使いも戦士も魅力ではあるのだが、戦士を選んで低レベルがいきなり生き残れる程、この世界は甘くないだろう。


「よし決めた!」

「戦士でしょ?」

「いや魔法使いだろ?」

「お前らな……別にご機嫌取りのために職業を選ぶ訳じゃないんだからはっきり言うぞ、俺は魔法を一つ覚えたいと思ってる」

「やったねー!」

「そんな……」


 テトラはがっくりとその場で項垂れていた。

別に俺だって戦士をやりたくない訳じゃないが、魔法でも決して万能系ではなく自分の今持っているステータスを存分に生かしたいのだ。


「なあマゼンタ」

「なんだい?」

「この威圧値なら絶対俺の強さを勘違いしてくる奴が出てくる筈だ、だからこそ一撃が強力な魔法を一つ覚えたいんだが」

「そういう事か、でもあの魔法は僕もまだ覚える事ができてないスキルだからね、ざっと魔力は二千ポイントは必要かな、僕と違って君は好きなポイントに振る事ができるけど、それでも100Lvまで待つ必要があるね、一回のLvUPで手に入れられるポイントはたったの20しか無いんだよ」


 100Lvか、今回みたいな事はこれからそうそうあるもんじゃないしな、それこそドラゴンがいきなり俺の仲間になるっていうのはレアケースってもんだろう。

ここは諦めて無難な魔法を手に入れて耐久力を固めていこうかな……。


「番丁ならもう100Lvになってる……ていうか超えてる……」

「それは本当か? すて、ステータスオープン……」


 またしても不慣れな暗号を叫ぶと目前にバーチャル映像が表れる。


吉木番丁 (16) Lv134

     ・

     ・

体力  3

攻撃力 3


「ひゃっ百三十四!?」

「ええええええ!!! 嘘だろ!」

「一回の戦闘でそんなにもLvが上がったっていうの!?」


 目を輝かせながら近づいてくるマゼンタとさっきまで項垂れていたのに飛びついてくるテトラ。

一体さっきまで落ち込んでいたのはなんだったのか、ていうか二人とも密着しすぎて胸が当たってるんですが……。


「へえ~それにしてもステータスひっくいね~」

「ほっほっとけやい!」

「まあ番丁くんのステータスは平均でもかなり低い方だからね、ステータスは生前に影響するって聞いた事があるけどあまり戦わなかったんじゃないの」

「それなのに威圧値だけは高いってなんか変だよね~」


 マゼンタの言う通りだ、生前ではこの目つきが原因で告白に失敗し続けたりまあ色々あったが、今となっては力を利用したい放題なのである。


「とりあえずステータスの振り方だけど、どうするんだ?」

「スキルのボタンを押してみて、きっとそれでできると思うわ」


 ステータスの数値が並んでいる下には文字がザーッと並んでいた。

ユニークスキルがどれかは分からないが一番上にあったのでステータス振り分けを押してみる。


「それにしても番丁のスキルってどれもこれも僕が見たことないものばっかなんだな」

「でも全部に威圧の『威』って書いてあるからあまり押してもらいたくは無いわね……」


 テトラとマゼンタの言う通りステータス振り分けにも様々なスキルが豊富にあった。

それにしても異世界の住人に分からないスキルがあるなんて、これも全部生前に手に入れていた力が影響しているのだろうか。

 ステータス振り分けを押すと振り分け画面が出てきた。

 それにしても所々ゲームに似てるものだ、+を押せば1追加され、-を押せば1取り消しされる。

 長押しし続けると複数の数字が魔力数値に加算され、2000pt入った処でOKボタンを押した。

余った680ポイントは命が危ないので体力に全振りっと。


「よし! これで魔法ゲットだぜ!」

「やったね番丁! これで君も今日から戦士と違った果てしなく長くて深い魔法道マジックロードを歩む事になるんだ……フフフ、君に魔法の力を一から教えられると思うとゾクゾクしてくるよ……」

「むむっ!」


 あんたが煽るからそこの女戦士怒っちゃいましたよ、どうやら煽り行為で腹が立つのは万国共通どこでもらしいな。


「それにしても龍花は何で俺のステータスにそんなに詳しいんだ?」

「ステータスの一番左下を見て……私はご主人様の下部だからご主人様の情報なら全部分かる……小学生の頃プールの時間に女の子のパンツを……」

「だああああああ!!! ストップストップ!」


 まさか俺の記憶までこいつは分かってるのか、だとするなら調教が必要だな、エロい意味ではない。

龍花の言う通り左下を見ると黒龍のアイコンがあった、これが龍花と関係しているのだろうか。


「なるほどねーそういう事だったのか!」

「どういう事なんだマゼンタ」

「いやね、僕も聞いた事があるのさ、あるステータスが高ければ高い程魔物アディポサイトと戦わなくても降参し従服するってね、それがまさか威圧値だったなんて思わなかったけどね~」

「ついでにアディポサイトは魔物って意味よ!」

「ほう」


 テトラがしっかりと異世界用語の意味を補足してくれた処で、俺達は一旦テトラが所属している国家にまで案内される事になった。龍花は当然この国にとっては敵でしかない存在だ、しかし少女の姿をした彼女をあの黒龍だと思う国民はいないだろう。しかしここでは一つある問題があった。


「おかしいわね、何で誰も外にいないのかしら」

「うーん、きっと僕達の中にとんでもない威圧感を溢れさせてる人がいるからじゃあないかねえテトラ君」


 マゼンタがそう言うと三人は同時に俺の目を「ジー」と凝視するのだった。


「やれやれ、僕がいないとやっぱり駄目だな番丁は、ちゃんと持ってきてあげたよお面」

「あっ! これは威圧値を奪ってくれる白色のお面!」


 マゼンタは呆れた顔で俺に白いお面を渡し、俺は再度アノ○マス似のお面を被るのだった。


「さて、これで大丈夫かな」

「まあ少し龍花ちゃんの威圧値が高いけど少し怖いっていう程度だからいいかな」


 数分後にさっきまで過疎化が進んでいったような街だったこの周辺には、どんどん人が溢れていくのだった。しかしやはり国家直属の剣使いが一人いるからか、街を出歩くだけで俺達は住民に凝視されている。


「君がいたらどうも街を歩きずらいよね、なんとかならないの」

「仕方ないないでしょ、洞窟に潜んでた怪しい魔法使いと違って私はここじゃ知名度が高いんだから」

「むかっー! 君今なんて言った!」


 怒っているマゼンタを制そうと「まあまあ」と宥めたのだが、「「番丁」くん」」は黙ってて!と二人からバッシングを受けるのだった。俺もこれ以上目立ちたくはないのだが、もう夜も近い。

 今夜は宿代と食費はテトラが払ってくれるという事になってるが、それを出しに使ったテトラに対して怒ったマゼンタが更なるブーイングを返した事によって口喧嘩は数十分間その場で続くのだった。

 争いが終わったのはさっきよりも多くの人だかりができたからだ、やはり立場上テトラも大事は起こしたくないんだろうな。


「ん~とりあえずよ! そこで食事なんかどう? 美味しいエールなんかも置いてるわよ」

「エール……?」


 彼女の言うエールの正体が分かったのはお店の中に入ってからの事だった。

エールは異世界でいうビールの事らしい、俺も大好物なので一つ頼んでみたがこの世界の俺はまだ16歳の未成年という事で断られるのだった。結局エールを飲み明かしながら肩を組み酔っぱらっていたのはマゼンタとテトラである。さっきまでの争いはなんだったのか、まるで酔っ払いの親父だな……。

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