第4話 ユニークスキル、ステータス振り分け
いつ襲ってくるかも分からないドラゴンの睨みは、実際目と目が合った時に改めて更なる恐怖が増して来るのだった。
しかしドラゴンはこちらに近づいてくる処か、何故か一歩、二歩と後ろに後ずさっている。
「怯えているの?」
テトラが言った通りだ、黒龍の様子は少し変で徐々に体を震わせ地面に倒れ込み、鋭い牙を持った両手で頭を押さえていた。まさかあのおっかない不良達が怯えていたようにこいつも俺の目つきが怖いのか。
そういえば俺の威圧値で手を震わせていたテトラが言っていた筈だ、威圧に関してなら俺よりも怖い敵は存在しないって。
本当に怯えてるか、こんなにも恐ろしい黒龍にこんな一面があったとは……だけどこう見ると可愛いと思えてくる。
「邪心に眠る覇者なる英知よ・汝の力を我に与え……」
「待てーい!!!」
危ない……あと少しで魔法をぶっ放される処だった。
「あのな、これは完全に俺の手柄だ、そうだろ、違うか?」
「そ、それは勿論分かってるよ、取り分が不満なんだろうけど僕は興味ないし、なんだったら倒した後に素材も報酬も君が全部もらえばいいよ」
「そうじゃなーい! 俺の言ってる事が分かったならこいつを殺すな! お前達がどんな理由で命令を受けたのかは知らないが怯えてるだろ、可哀想じゃないか!」
「えっ……?」
俺の威圧でドラゴンがびびってこいつらが勝利してしまうというのならこっちにもわがままを言う権利くらいはある筈だ。俺はこんなにも怯えてしまう生き物を自分の力で殺す事がどうしても許せなかった。
きょとんとしたテトラと僕っ娘少女だったが、テトラもテトラで何か俺に言いたい顔をしているようだ。
「いや、可哀想だからってねえ、君!」
「私を……生かしてくれるの?」
「なっ!?」
喋ったのはテトラでも僕っ娘少女でもない。
俺はこの目で見た、正真正銘この黒龍が俺に喋りかけたのである。
「お前……喋れたのか?」
「うん……何であなた私生かしてくれる? 人間私をいじめるのに……」
「やっぱりそうか、お前だって本当は戦いたく無かったんだろ? 人間の身勝手さが原因で住処を荒らされて抵抗する魔物達が悪者にされる展開はアニメなんかでもよくある事だからな」
「アニメ……? 私はただ眠る場所が欲しかっただけで……でもあなたには勝てないから負けを認める……」
「俺には勝てない?」
「あなたいくらなんでも強すぎる……そんな相手と戦っても無謀なだけ……」
無謀と言われても俺のHPはたったの3しか無くて他のステータスもボロボロだ。
これも俺の威圧値が高いから勘違いしてくれてるのか、だとすればどれだけ便利なんだ威圧値……。
「とにかく俺達がお前に手を出さないって事は分かっただろ、分かったらもう誰も来ない場所に逃げるんだ」
「できない……」
「何で?」
「私の翼……ここに落ちた時に撃ち落とされた……だからもう飛ぶ事はもうできない」
「撃ち落とされただって? そうか、おいそこの僕っ娘、さっき治癒とか言ってたけどお前の力で治せないのか?」
「僕っ娘って僕のこと? 無理だよそんな高度な魔法、僕は戦闘タイプだから補助スキルとしてしか治癒能力は発動しないんだ、そんな大きい古傷を治す事は専門の治癒師ヒーラーを呼ぶしかないよ」
弱った……ていうかこの黒龍バッチリ人間に恨み持ってんじゃねえか、そりゃあ飛べなくさせられた挙句に住処荒らされちゃ反撃しない訳にもいかないわな。
「でも……あなたに付いて行く事ならできる」
「つ、付いていく!?」
そう言うと突如として黒龍は可視光線の輝きを放ち、洞窟は光で包み込まれる。
光が放たれている間は誰も黒龍の姿を見る事ができない、そして光が収まった時にはあのドラゴンの姿は無かった、代わりにその場に立っていたのは十代前半くらいの幼い女がである。
「な……なんでこんな処に女の子が……」
「私黒龍……あなたに付いていく……」
「「「え……えええええええええええええ!!!!!」」」
俺だけで無くテトラと僕っ娘の女も驚きの声を上げていた。
そこに立っていたのは何もセットされていない腰まで伸びているサラサラとした黒髪の女の子で、目はあの黒龍と同じ烈火の如く激しい力が備わったようなものだ。
彼女達が驚くという事は生き物が人間に化けるのは稀であるということだろう。
「お前本当に……」
「LvがUPしました!」
「お前本当に黒……」
「LvがUPしました!」
「お前……」
「LvがUPしました!」
「だあああああああ! なんだこの耳から直接響いてくる音は!!!」
「私達には何も聞こえないけど……ひょっとして番丁くんが黒龍を仲間にしちゃったからその分の経験値がもらえたんじゃないかな?」
驚愕の事実が何個も突きつけられ頭がカオス状態に陥りそうだぜ。
それにしても黒龍が人間になった? それで俺の仲間に? 誰でもいいから俺に驚かせる間みたいなものをくれ、さっきここが異世界だという事を伝えらればっかなんだぞ……こんな事実ごく普通の無職だった人間が受け入れられる訳ないだろ。
「それにしても君の威圧値ってLvが上がったのにあまり変化がないように感じられるよね、それだけ高かったらあまり変化が無いのかな」
「なんだ、お前も俺の威圧感を感じ取ってたんだな、平気そうな顔してるから大丈夫だと思ってたぞ」
「そりゃあ黒龍みたいな化け物に効く威圧値を僕が何も感じない訳がないだろ、さっきからあちこちから鳥肌が止まらないよ……」
「私もそうだわ……」
テトラと僕っ娘女は気を抜くと体全身を小刻みに震わせていた。
まさかここまで効果があるとはな、俺でも倒せる事ができたこの黒龍よりひょっとするとDQN共の方が強かったって事になるのか……。
「番丁……あなたのステータスポイントはまだ振り分けされてない」
「ステータスの振り分けだって? 僕達の国の誰もが持ってないユニークスキル……まさか君が持ってるというのか」
「おかしな事じゃないわよ、だって番丁くんは異世界から来たんだから」
「いっ異世界から!? 通りででたらめな威圧値を持ってる訳だ……こんな力を持て余してるなんて前世で神だったりするんじゃないのか」
ただの目つきが悪くて面接に落ち続けた無職なんですがそれは……。
「そういえば君達には自己紹介がまだだったよね? 僕の名前はマゼンタ・バイオレット、よろしく」
「私も番長君にしかしてなかったわね、フリードリヒ・テトラよ、仲良くしてね♪」
「えっと、俺は吉木番丁だ、確かに異世界から来たけど俺は実力自体大した事無いんだ、まあよろしくやってくれよ」
適当に自己紹介を済ませたのだが、マゼンタは信じられないのか「またまた~」と呆れた顔をしていた。本当に弱いんだけどな、こうやって勘違いした相手に事実を知られた時真っ先に命を奪われないか心配だ。少し勉強になったかもしれないな。
「私の名前は……番丁付けて」
「なんだお前、名前無いのか」
「黒龍って名前はある……でも嫌い……」
確かに悪名高いドラゴンとして名付けられていたのがこの黒龍って名前だ。嫌な名前と思うのも仕方ない事か。それにしても子供に名前を与えるってのは考えさせられるものだな、父親ってこういう気分なのか……。
「弱ったな~何かいい名前があるかな~うーん」
「なんだ、思いつかないなら代わりに僕が付けてやろうか?」
「いや遠慮しておく、実はもう名前は思いついていたんだ」
「だったら早く言ってくれよ……」
マゼンタの軽快なツッコミはさておき、まずは彼女が気に入ってくれるかだが。
「龍花って名前はどうだ?」
「リュウカ……可愛い名前」
黒龍は頬を赤く染めながら俺の付ける名前に喜んでいた。
本来黒龍ってのは中国が発祥だ、だからこそ同じアジアの日本名が最適と思いこういう名前を付けた訳だ、だって俺そもそも中国語シェイシェイしか知らないもん。
「さて! 名前も付け終わった事で君の凄いユニークスキルの力でステータスを割り振れるんだよね! だったら魔法使いソーサラーになるのはどうかな? 良かったら僕が使ってない魔法を片っ端から覚えてもらえるとありがたいんだけど!」
「待ってマゼンタ、彼はここで育った訳じゃない異世界人なのよ、耐久力が低い魔法使いを選んでしまえば大きい攻撃を食らった時に死んでしまう可能性もあるでしょ」
「何言ってんだ! 戦闘経験が浅いからこそ魔法を使って遠くから強敵を倒す事が最適だろ!」
「強敵を倒せるのは魔法使いだけじゃないでしょ! 番丁くん、ここは戦士ウォーリアを選ぶべきよ! 経験不足が何? 剣術なら私がいっぱい鍛錬してあげるわよ!」
「鍛錬なら僕が一杯教えてあげるよ番丁、脳筋っぽい戦士より魔法使いの方が異世界人からしたらスリリングに思えないかい?」
「あら、さっきのあなたの詠唱で敵に飛ばされてる処を見ると大した魔法使いに見えなかったけどね」
「あんただって人の事言えないだろ! スクワッドソルジャーに入れたからっていい気になっちゃって」
「なんですって!」
よく分からないがここでバトルが勃発しているようだ……。
生前で女というものがどういう生き物か分からずに死んだのだが、この異世界でも女ってよく分からん……。
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