第2話 ステータスオープンと威圧感
「ねえ君大丈夫?」
「……ッハ!?」
「「痛てっ!?」」
目をパッと見開き、勢いよく上体をあげようとするとでことでこがぶつかった。
頭を押さえていた時間は彼女よりも何故か俺の方が長かったのだが、その人一倍固い頭を持ってそうな女の子は黒い長髪に碧眼、変わった目をしているなと思ったが、変わっているのは目だけではない。
格好は動きやすそうな短い褐色のフレアスカートに、膨らんだ胸が目立った中紅色の半袖のシャツである。
更には手袋の上で握られていたのが、分厚く重量は数十キロはあるんじゃないかと思われる大剣だった。
疑う予知の無くこいつはレプリカだろうが、彼女が地面に振り下ろした大剣は砂埃を撒き散らせながらおよそ1メートル辺りまで大きく沈んでいた。
「あなた……私と戦いたいの?」
「うわー! 戦いません! 戦いません!」
レプリカだろうがなんだろうがこんな処で殺される訳にもいかないので、自分の目つきが人一倍悪い事を事細かく彼女に伝えた。彼女は納得したように数度頷いた後、何故か高笑いしながら目に涙を浮かべていた、何がそんなにおかしかったのだろうか。
「ははははははっ! それはあれよ、あなたの目つきが悪いんじゃなくて単に威圧値がとんでもなく高いのよ」
「威圧値?」
「ひょっとしてあなた農民? それとも商人?」
「いや俺はただの無職……じゃなかった、ここがどこか知らないけど来たばっかで何もわからないんだ」
目前の少女は少し考える素振りをし、ステータスオープンという謎の暗号を呟く。
「こっちに来てみて」
彼女の言う通りに歩を進めると、そこに映っていたのはバーチャル空間で俺が普段見ていたようなゲームのステータス値のようなものだ。筋力や耐久力、更には魔力などあれこれと文字が並んでいる。
「ほら、ここにあるでしょ? 威圧値が」
「952?」
「それは私の数値よ、これでも結構高い方なんだけど私がここまで怯えるなんてきっとあなたの方が高いんだわ、だって未だに手が震えてるのよ」
「本当だ……」
少し申し訳ないような気がした、コスプレ趣味の少女を俺の眼力だけでここまで怯えさせるなんて。
おまけにステータス値や威圧値という意味不明な事なんか女の子に言わせちゃって、よっぽど怖かったんだろうな。
「じゃあ今度はあなたが言ってみて」
「何が? 何を?」
「何をって、ステータスオープンをよ」
「ステータスオープン? 俺はもう成人過ぎてんだぞ、そんな恥ずかしい事言えるかってんだ」
「何を言ってるの、あなたみたいな子供っぽい成人がいる訳ないじゃない」
「あら、僕ってそんな若く見えます?」
「それよりも早くステータスを確認してみてよ! あなたの威圧値がどんなものか知りたいわ」
彼女の言う通り目前にはあのゲームなんかで見るステータスが俺の近くにも出ていたのだ、どういう仕組みかは分からないが出てきたことは確からしい。
しかしステータスオープンなんて恥ずかしい言葉言った覚えが無いんだが、やっぱりインチキなんじゃないか。
「どれどれ……?」
体力 3
攻撃力 3
耐久力 7
魔力 12
敏捷性 13
・
・
・
威圧 90000000
これが威圧値か、一、十、百……って数えられるかい!。
「嘘でしょこんな事ってあるの……!?」
驚きの声をあげたのは彼女の方だった、確かこのコスプレ女の威圧値は九百なんぼとか言ってた気がするが。
「通りで震えが止まらない筈だわ、今でも震えてるもの手も足も……」
「そ、そんなに俺が怖いのか……」
「怖いなんてもんじゃないわ! 心臓が今にも張り裂けそうだもの、でもあなた他の値は大したことないのね」
ほっ、ほっとけやい! でも本当にそうだ、大した事が無いというかほぼ初期のステータス状態というか。
「って、悪いけど俺も急いでるんでな、ガキのおままごとに付き合ってる暇は無いんだわ」
「ガキってあなた私より年下でしょ?」
「はあ? どうやったらそういう風に見えるんだ」
「だって書いてあるもの」
ステータスを指さす少女だったがよく見ると値の一番上の方に年齢と個人情報が書いてある。
吉木番丁 (16) Lv1
・
・
体力 3
攻撃力 3
16歳? 俺が? できるもんなら戻ってみたい処ですがね、現実はそう甘くないと……。
「ってこれ俺か!?」
「そうよ」
ふと彼女がバッグから取り出した手鏡に映る姿は、紛れもない自分自身の姿である。
しかし自分とはいっても高校初年度の頃のまだ顔が老ける前の俺だ。
目つきはまだ大人し目でここから更に成長して悪くなっていくのだが、そうなるとこの威圧値というステータスもあがっていくのか?
「本当に信じられないわね……Lv1なのに一体あなたどうやってこんなにも多くの威圧値を手に入れたの?」
「だからさっきも言っただろ、俺はこの世界に来たばかりなんだよ、自分でもここがなんなのか分かってないんだ」
「分かってない……? あなたもしかして……!? 異世界から来たの!?」
異世界……ひやー、この人面白いですわー。
見た感じもう良いお姉さんって感じなんだからメルヘンチックな妄想の世界に俺を巻き込むのはできれば勘弁して頂きたいのだが、もう少し彼女の世界観に浸ってやる事にした。
「そうだよ、異世界からきたんだ」
「やっぱり!!!」
いやー俺も大人ですな。
しかし俺の顔がこんな童顔になった理由も彼女に聞かなければならないし、それがメルヘン話だろうがなんだろうが顔が変形した事は事実なのである。
「ねえ! 私今異世界から来た人をあちこち探し廻っているのよ! 良かったら友達になってくれない?」
「あちこち? じゃあ俺以外にもいるって事なのか? 別に友達はいいけど」
「あなた以外にもいるわよ、それは良かった! コネクトオープン!」
またしても彼女の前に飛び出したのはバーチャル的文字表記だ、文字は反転しているが俺の立ち位置からでも見える。そして彼女が何かを押したような動作をした後、信号が流れ込んでくるように耳に音が鳴り始める。
「うわっ!? なんだこの音は」
「あなたもコネクトオープンしてみて、承認ボタンを押せば私の情報が見れる筈だわ」
「コネクト……オープン…?」
少し照れ臭かったがまたしても現れるバーチャル的文字表記、言葉が違ったからか今度は画面全体がさっきのステータス値とは違っていた。
「私の名前押してみて」
「このテトラってボタンをか?」
「そう、私の名前はフリードリヒ・テトラよ、よろしく吉木番丁くん」
「お、おう、ていうかよく俺の名前分かったな」
「それなら仕組みは一緒よ、私のコネクト表記にもあなたの名前がちゃんと書かれているんだから」
そういえばさっきのステータスにも俺の名前が薄っすら書かれていたな、ネットにすら本名なんて書きこんだ事が無いのによくわかったものだ。テトラの言う通り名前を押してみる事にした、三択の文字が出てきたが一つは「call」、もう一つが「massage」、更にもう一つが「status」である。
「callボタンよ、それを押せばいつでも私があなたの元へと駆けつける事ができるの!」
「へえ、ん? スクワッドソルジャー? なんだこれ」
「ふふっ、あなたには分からないと思うけど私こう見えてこの国ではめちゃくちゃ強いのよ!」
「へえ、お姉さん強いんだ……」
「どうやら信じてないみたいね、名目上、国家直属の四人の剣使いがいつでも連絡を取れるように私達四人の選ばれたソードマスターがここに入れられるけど、中でも魔法と剣を交互に使いこなせるのは私だけなんだから!」
テトラは「えっへん!」と自慢気に胸を叩いて鼻を高くしていた。
なんだかこの女と話を続ける事でこの世界が異世界だという信憑性が益々増すばかりで、頭がおかしくなっていくような気がした。
そもそも俺は死んだんだよな……? だとしたら異世界に本当に飛ばされててもおかしくないんじゃ。
っていうことは本当にここは異世界なのか……?
「じゃあ私はもう行かないといけないから、そうそう! これあなたに渡しておくわ」
「なんだこれ……」
渡されたのはアノ○マスを想起させるような真っ白い恐ろしい奴の仮面である。
目つきが悪いからこれで顔でも隠せって言うんじゃないだろうな。
それにしてもこれじゃあむしろ子供の方が泣いてしまうような気がするのだが。
「それは威圧値をゼロにする魔力で作られた仮面だわ、本当は私の威圧値が高いから付けろって言われてたんだけどどう考えてもあなたの方が必要みたいね」
これで誰にも怯えられずに済むのならそれに越したことは無いと思い、迷わず手にした仮面をつけてみる事にした。
「っほ、おかげで震えも止まったみたいだわ」
「なんだ……お前ずっと震えっぱなしで喋っていたのか?」
「ははっ! まあいくら魔物退治で慣らしてるとはいえあなたより怖い敵なんて存在しないからね、黒龍狩りに行くけどあなたのおかげで大分楽な気分になったよ」
「へえ、黒龍ねえ……」
「それじゃあ私はもう行くわ! 何かあったらいつでも私にcallしてね! 時間が空いてる限りできるだけ駆けつけるわ」
「そうか、そっちこそ元気でな」
「うん! また会いましょ!」
彼女は何も無い荒野を駆け抜けていった、とはいったものの東西南北とここは荒野しか存在しないのだが。しかし番丁は今になって気づくのだった、結局どこに行けば町に行けるのかと。
「クッソ! どんだけ足早いんだ、もうあいつ見えないぞ!」
さっきからcallのボタンを連打しまくっているのだがテトラが電話に出る事は無い。
電源でも切っているのか、でも電話じゃなくさっきは直接耳から音が鳴っていたし。
「ああーーー! なんでこんな目に!」
止むを得ず走って番丁はテトラの足跡を辿って追いかける事にした。この時敏捷性が13である事を思い出していたのならば彼女を追う事は決してなかっただろう。番丁は気づけばテトラを追うために何時間も足を止めずに走っていた。
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