最弱最凶の一般人

コルフーニャ

第1話 無職異世界に行く。

 俺は23歳無職である。

身長は166とそこそこ、髪に関してはチャラチャラしてると思われたくないので一度も染めたことは無い。

容姿も普通で何一つ欠点は無しと自己評価していたが、俺は大学を卒業するまでの就活に失敗していた。

勿論努力もできるだけした、迷惑を覚悟で重複で面接を受けたりもしたが全部駄目。

面接はことごとく落ち300社目に突入する前に俺の心はとうに折れていた。


 資格は勿論それなりには取ってきたつもりで欠点なんて『アレ』しか無い筈だったが、案の定日本の面接社会を生き抜くためには『アレ』が影響するのは至極当然のことだと言えるだろう。

何せ今の状況がまさにアレの影響で招いた結果だと言えるのだから。


「こ、こいつか……お前ら気を付けろや、体にどんくらいナイフ仕込んでるか分からんぞ」

「ひいい……何余裕ぶっかましとんねんこら……」


 何が起こってるかって?

俺の周りにはナイフを手にした反社会的な方々が何人いるだろうか。

十一、十二……半周したし大体それの倍かな……。

俺を取り囲む八九三の連中は何故かナイフを構えたまま三分間立ち尽くしたままである。

特に何か俺と話したいがためという事ではなく単純に怯えているようだ。



 事の発端はコンビニから出た時の事だ。

店員さんからもらったレシートを財布の中に入れようか入れまいか迷っていた処、レシートと共に握っていた小銭が手から滑り落ち、転がった先はバイクの前で立っている八人組の連中の元である。


「お、ラッキー500円が転がり込んで来たわ」

「お前付いとるやんけ!」


 とまあ、恐らくこんな会話があったのだろうが、俺はその人達が生憎どういう人かは分からずに話しかけたのである。


「あ、それ俺のです、拾ってくれてありが……」

「あぁ? 拾ったんやから俺のやろがいボケ! って……おまっ……」


 コインを拾われるまでは別に良かったのだ、良かったのだが……問題は俺の面を彼らに見せてしまった事にある。


「何やその目……ほ、ほら、この500円返すから持っていき」

「あ、ありがとうございます」


500円をもらったのが運の尽きだったのか、いや結局もらおうがもらわまいがこの運命は逃れられなかっただろうが。そして今の状況に陥ったのはそれから3分後の事なのである。


「お前こいつらに殺すぞボケって喧嘩売ったそうやないか、ほんとか?」

「いやそんな事言ってません……」

「組長、俺はこいつに俺のテリトリーに足踏み入れるなゴミがって言われました……」


 テリトリーって……俺を薬物の売人とでも勘違いしてるのか。

さっきからこいつらの怯え具合にはおかしいと思う読者も多いと思うだろうが、それもこれも全部アレのせいなのである。


「見ろ! あのゴミを見るみたいな目、お前そんな目でよく抜け抜けと嘘つけるな! 清々しいわ!」

「だって生まれつきのもんやもん……」


 あかん……殺される……。

ナイフを持たれてる時点でもう俺に生きる術なんてものは無いも同然なのだ。

就活でも惨敗で食費ももう尽きる処だし、俺も若干生きるのは諦めてる部分はある。

だとするならば精々悪あがきはさせてもらおうじゃないか。

お前らが俺をどれだけ極悪人に見えようと良心の気持ちは少し残ってるのでね。


「おい! あいつ何か出す気や!」

「拳銃や、お前ら誰か取り押さえろ!」

「いや待てっ!」


俺が取り出したのはナイフでも拳銃なんかでもない、スマホである。

何を言っても無駄なので無言で数字を押し終わると、俺が今最も必要としている人物に電話がかかった。


「あっもしもし」

「誰や……もしかしてこいつのボスが今からここに来るんじゃ!?」

「警察ですか? ナイフを持った男達に囲まれてるので今すぐ来てください」


 電話が終わった頃には俺を取り囲む男達が固まっていた、流石にヤクザとは言え警察の名を出されちゃ終わりなのだろう。


「とんだ見かけ倒しの一般人パンピーやないかい! 殺せええええええ!!!」


 ナイフが次々に体を滅多刺しにする。

まさか反社会勢力の奴らに警察よりも怖い者があったとはな、しかもそれが俺だったなんて。

もはや今自分が死んでるものかも分からなかったが、これだけの威圧感があるんだったら動物園で猛獣を手名づける飼育員さんにでもなれば良かったと後悔した。

次生まれ変わる時はもっと自分にあった職種を目指して見ようか……。

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