深夜の目撃者
ある伝統的な旅館にて、ロビー付近に飾ってあった高額な絵画が盗まれた。犯行は深夜、宿泊客は勿論、殆どの旅館スタッフは寝静まっている時間であったため、目撃者はゼロ。しかし、私だけは見ていた。ほぼ24時間、同じ旅館の同じ場所を瞬き一つせずに見守り続ける、この旅館の監視役。例の盗難事件も当然私は捉えていた。この透き通ったレンズ越しに。
深夜2時過ぎ、大きめの袋を持った男が執拗に周囲を確認しながら、こそこそと近づいてきた。そして、絵画の目の前に立つと、改めてその絵画の素晴らしさを実感したのか、絵画の価値を肌で感じたのか、どうであれ、絵画に魅了されたように、突っ立っていた。しかし、すぐに自分の目的を思い出したようで、少し焦った様子で道具を取り出し、それを用いて、不慣れな手つきで絵画を額縁から取り外した。全て見られているとも知らずに、馬鹿な奴だ。
そして、絵画の価値を落とさないためか、カバーをかけた後、最初から持っていた袋に丁寧に押し込んだ。ほう、コソ泥の癖に物の価値ぐらいはよく理解している。
絵画を盗み出し、撤退する前に再び周囲を確認する男。おっと、今目があった。どうやら、今までの行動全てを、こちらで捉えられたことに気付いたようだ。そのことを理解した途端、急に表情から焦りが見え始め、考えた末、カメラを壊そうとしたのか、こちらに手を伸ばす。しかし、カメラが壊れたところで録画したデータがまだ残っている。
それを思い出した私は、こうして監視室で自分の犯行のデータを確認している。この旅館の監視役、警備員である私は、深夜であろうと、仕事柄自由に旅館内を徘徊することができる。普段はこの監視室でカメラの映像を監視しているため、ここの機械の扱いにも慣れている。
今まで見ていた自分の犯行が映った録画データは完全に消去した後で、現場の監視カメラを破壊した。今まで私の目となってくれたカメラを破壊するのは少し心苦しかったが、お前はこの事件の唯一の目撃者だ。完全犯罪でなくては困る。
そして、かつての相棒に別れを告げると、盗み出した絵画を抱え、夜の闇へと消えることにした。
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