第7話脱出③
○南阿蘇村・久木野庁舎・駐車場(朝)
ヨーヘイとマサが庁舎から出てきてバンに乗り込む。
○車内(朝)
ヨーヘイは助手席に、マサは2番目の列に座る。運転席にはチョー、二番目の
席はマサとマンキー、最後列にはリディーとシアが座っている。リディーとシ
アはヨーヘイとマサが帰ってくると座席から身を乗り出す。マンキーはぐった
りと物憂げに座席に深くもたれかかっている。
チョー「よぉ、どうだった?」
マサ「やっぱ行ってみなわからへんってさ」
チョー「そうか……このまま東に向かってええんやな」
マサ「そうやな。山道いくにも、国道使うにしても、東に向かわなあかんからな」
チョー「それじゃあ、いくでー」
と、エンジンをかけて出発する。
マサ「とりあえず、次の庁舎向かってな」
○南阿蘇村・久木野庁舎・駐車場(朝)
バンがゆっくり駐車場を出ていく。
○車内(朝)
ヨーヘイ、後ろのマサへと振り返る。
ヨーヘイ「あの、提案なんっすけど……」
マサ「ん、なに?」
ヨーヘイ「もし今度の庁舎で高千穂の道通れるようになってたら、高千穂寄ってかな
いですか?」
マサ「え、なんで?」
と、驚きの表情。
ヨーヘイ「ほら、この旅行ってあと三日ぐらいいる予定やったじゃないですか。もう
熊本とかハウステンボスとか行けなくなったですけど、リディーが行きたがってた
高千穂なら、すぐ近くですし、ちょっと立ち寄るぐらいなら出来るかなって……」
と、少しおどけながらも、言いづらそうに話す。
マサ「ヨーヘイ、それはあかんで」
リディー「そうよ。私のことなら大丈夫よ!」
と、大きく身を乗り出す。
マサ「あのな、みんな家族心配してるから、一刻も早く帰らんと」
ヨーヘイ「すいません……よかれと思って言ったんですけど……」
と、シュンとする。
○南阿蘇村・国道325号(朝)
バンは人家の少ない田園地帯の一本道を軽快に飛ばしていく。
進行方向左手に阿蘇五岳。
○車内(朝)
静かな車内。チョーは前を真っすぐ向いて集中して運転している。
他の5人は深く座席にもたれてお疲れモード。マンキーは目をつぶっている。
ヨーヘイは助手席で窓の縁に肘をつきながら窓の外を眺めている。
ヨーヘイ「おぉ……」
マサが気づき、腰を浮かす。
マサ「どうしたん?」
ヨーヘイ、窓の外を指差す。
進行方向左側に見える阿蘇五岳から日が昇ってくる。高くそびえるのこぎり型
のギザギザの稜線が光の線を描く。
マサ「うぉ~、すごいな」
チョー、リディー、シアも「お~」と声を上げる。
ヨーヘイ、ケータイを眺める。
ヨーヘイ「もう9時半ですよ」
マサ「あぁ、やっぱり山が高いで影になってたんやな」
しばらくメンバーは辺りの光景を眺める。
○南阿蘇村・国道325号(朝)
緑の萌える草原を颯爽と走る。
○車内(朝)
落ち着いた雰囲気の車内。
窓に肘をついているヨーヘイ。
ヨーヘイ「こんな大変な時なのに、キレイっすね」
マサ「な、地震あっても、自然って関係ないな」
ヨーヘイ「今回の旅行、こんな感じになっちゃいましたけど、それでも僕、今、
ちょっと楽しいです」
と、しみじみとした顔をする。
ヨーヘイ「僕らは観光客で大阪に逃げれるけど、ここの人はこれからもここで暮らし
てかなきゃいけないわけで、申訳ない気持ちもありますけど、それでも、こうして
友達と旅行にいくのなんて久しぶりでしたから……不謹慎かもしれないですけど」
と、ため息をつく。
ヨーヘイ「もっとゆっくりこの光景楽しみたかったですけどね」
しばし沈黙。
マサ「なんか、さっきはキツク言い過ぎてもうたかも……ごめんな」
ヨーヘイ「いぇ、気付かなかった僕が悪かったんです。すいません」
と二人共、軽く頭を下げる。
○南阿蘇村・白水庁舎・駐車場(朝)
混みあう駐車場。庁舎の前には何台かの消防団の車両
○車内(朝)
ヨーヘイとマサが乗り込む。席は変わらず。
チョー「どうやった?」
マサ「やっぱりはっきりせぇへんな~」
ヨーヘイ「正直、何も情報変わりなし。高千穂に下りる道路は、まだ確認中で。
山道の方は何にも情報入ってきてないらしい」
チョー「まだ誰も行ってないってことやな?」
ヨーヘイ「そーみたい。通れたら連絡欲しいって言ってた」
三人がクスクス笑う。
マサ「どうする? 倒木や崖崩れがあるかもしれんけど、山道行く?」
ヨーヘイ「それしかないっすねぇ~」
マンキー「行くしかないっしょ」
チョー「おぅ、行こう」
マサ「じゃあ、そうしよっか?」
皆が軽く頷く。
マンキー「早く飯食って、歯ぁ磨きてぇ~」
チョー「はよベッドで横になりたいや」
と、エンジンをかける。
マンキー「よーし、それなら、レッツ・ゴー!」
と、腕を前方に伸ばす。運転席すぐ横をかすめる。
チョー「ちょっ、ふざけんな!」
と笑いながらのけ反る。
○南阿蘇村・白水庁舎・駐車場(朝)
バンはゆっくりと発進し、駐車場を避けていく。
○同・国道325号(朝)
バンが走る。スーパーやガソリンスタンド、コンビニなどが見え、気持ち
スピードを落とす。
マンキー「やってる店ないな~」
どの店舗もひと気が無い。
マサ「阿蘇抜けるまで、我慢やな~」
○同・国道325号と265号との交差点(朝)
バンは大きな交差点を左折する。
マンキー「あとどんぐらい?」
ヨーヘイ「ここからまだ10分は真っ直ぐ」
チョー「了解」
○同・国道265号・高森町町民体育館前交差点(朝)
バンが木立に囲まれた大きめの交差点に差しかかる。
チョー「おぃ、電線や!」
太い電線が交差点の真ん中から斜めに横たわる。
ヨーヘイ「おー、被災地っぽい」
チョー「どうする⁈」
バンが電線の少し手前で立ち止まる。
○車内(朝)
車内全員が顔を見合わせている。
マサ「渡って大丈夫かな?」
ヨーヘイ「切れ目を乗り上げなければ? 絶縁のゴムに覆われてるわけやし……」
チョー「よし、みんな、祈れ!」
○同・国道265号・高森町町民体育館前交差点(朝)
バンが徐行する。
ヨーヘイ「お願いします!」
マンキー「いけ~!」
チョー「神様!」
リディーとシアは短く「キャー!」と叫ぶ。
バンが電線に乗り上げる。
ゆっくりと交差点を渡り切る。
チョー「よっしゃー!」
ヨーヘイ「うっしゃ~!」
マンキー「何にもなかった~」
マサ「よかった~」
バンはスピードを上げて走り去る。
○車内(朝)
ヨーヘイがケータイを眺めている。バンは木立に囲まれた道を走っている。
ヨーヘイ「チョー、右の方見て。もうすぐ山に入ってく道がある」
チョー「わかった!」
○南阿蘇村・県道218号との交差点(朝)
バンが交差点を右に折れる。
二車線の舗装路を走る。
マンキー「思ったよりしっかりしてるやん」
ヨーヘイ「まだまだこっから。この先、アホ程複雑な道やから、ナビするでゆっくり
走って!」
チョー「OK! しっかりナビ頼む!」
○南阿蘇村・山道(朝)
一車線幅しかない土塊の道をバンがゆく。左側は垂直な山肌、右側は崖。
チョー「ほんまや、すごい山道や!」
バンがガタガタ揺れる。
マンキー「やばい、この道!」
マサ「リディー、シア、大丈夫?」
最後部座席のリディーとシアは、お互いにしがみつき合っている。
リディー「私達は、大丈夫!」
シア「心配しないで!」
ヨーヘイ「チョー、このまま100m程先、三俣の交差点を、左!」
チョー「左やな!」
バンが山肌がめり込んだような交差点を左に旋回する。
しばらく進むと、道の上2mほど上に、木々に引っかかったまま横倒しになっ
ている倒木が現れる。
チョー「倒木や!」
マサ「通れるか⁈」
チョー「大丈夫や!」
バンがスピードを落として、枝葉が下に垂れている倒木を渡ろうとする。
マンキー「車、傷つけんなよ!」
チョー「傷つけたら弁償や!」
マンキー「自腹やろ?」
チョー「おま、ふざけんな~!」
二人につられ、車内全員が笑う。
バンは無事倒木を潜り抜ける。
○山道
バンが未舗装路を走る。林は拓けて、ちらほら畑などが見える。
○車内
フロントガラス前方に木々の間を抜けて明るい光が射している。
チョー「おぃ、着いたんちゃうか⁈」
ヨーヘイ「うん、もうすぐ村です!」
マンキー「よっしゃ~!」
○大分県・滝水駅前
バンは細く急な坂道を下りて、拓けた村に出た。
すぐ傍らに、こじんまりとした駅舎と駐車場。向かいに小さな商店がある。
ヨーヘイ「よっしゃー、抜けた!」
チョー「よ~~~~っ!」
マサ「チョー、よぉやった!」
マンキー「チョー、えらい!」
リディー「おめでと~!」
シア「ありがとう!」
チョー「はは、見直したか!」
と、バンは駐車場に停まる。
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