第2話その前日②

○大観峰(昼)

   阿蘇の町を眼下に見下ろす断崖の上。

   崖の上は草原が広がり、鮮やかな緑が芽吹いている。

   ヨーヘイ(28・男・日本人)、マサ(30・男・日本人)、

   チョー(31・男・香港人)、リディー(25・女・台湾人)、

   シア(25・女・台湾人)、マンキー(23・女・韓国人)らメンバー6人は、

   展望スペースを持つ整備された公園にいた。

   標高差約100mの断崖を覗き込み、はしゃいでいるメンバーたち。

   ヨーヘイだけは独り離れて、腕時計を眺めている。

   時計の針は1時半。イライラした表情。

ヨーヘイ「もう一時間も……」

   チョー、リディー、シア、マンキーはチアリーダーのように飛び跳ねたり、

   リディー、シアら女性陣を肩に担いだり、その様子を撮影したりしている。

   マサがヨーヘイの元に近づく。

マサ「ごめんな、ヨーヘイ。もう次に行きたいやろ?」

   ヨーヘイ、笑顔を作り、

ヨーヘイ「いぇ、そんなことないですよ」

マサ「俺もな、初めてこのグループと旅行した時、予定がダラダラ伸びるなって思っ

 てたけど……いつもこんな感じなんよ」

ヨーヘイ「やっぱ外国のノリなんすかね?」

マサ「ま、もうすぐ落ち着くと思うから」

   マサ、チョーたちの輪に戻る。

   座ったままのヨーヘイ。

   断崖の先の光景を眺めて、ため息をつく。

ヨーヘイ「馴染まない自分が、ダメなんかな……」


○阿蘇町市街地(夕)

   夕暮れの町の大通りをメンバーのワゴン車が進む。道はやや混んでいる。


○車内(夕)

   席が変わり、ヨーヘイがハンドルを握っている。

マサ「いや~、遅くなってもたなー」

チョー「さっきの黒川で時間使ってもたからや!」

マンキー「え~、温泉、あと2,3こは入りたかったー」

シア「あとどれぐらいで着く?」

マサ「あと一時間ぐらいかかるで」

チョー「おぃ、せっかく肉とか買ったのに、真っ暗でバーベキューはいややで!」

マサ「しかたねぇじゃん、遅なったんやから」

ヨーヘイ「予定通りいけば、もみじ大吊橋も、草千里も、高千穂も行けたのに……」

マサ「はい、ヨーヘイもブツブツ言わない! 明日行けばいいやろ?」

ユーヘイ「でも、明日は熊本に向かうんでしょ?」

マサ「うっ……」

   マサ、少しバツが悪そうに口ごもる。

マサ「ま、高千穂行ってから、引き返して熊本行けばいいやん」

ユーヘイ「……うまくいきますかね?」

マサ「まぁまぁ、明日の事は、明日考えよ!」

ヨーヘイ「……そうっすね、宿しか決まってない、自由な旅ですもんね」

リディー「これから4日、楽しみな~」

マンキー「それよりバーベキューが楽しみだー!」

   車は郊外へ向かって走る。


○阿蘇大橋(宵)

   深い谷にかかる巨大な阿蘇大橋が現れる。


○車内(宵)

   辺りに人家のない木立に囲まれた道から、阿蘇大橋に差しかかる。

   ハンドルを握るヨーヘイ以外の全員が車窓に張り付く。皆、谷を眺めている。

リディー「うわぁ~、高~い!」

シア「ほんと……怖いねぇ~」

マンキー「落ちたら絶対死ぬよ!」

チョー「ヨーヘイ、気をつけて」

マサ「なめんなよ~」

   阿蘇大橋をゆっくり渡る。(以下、カットバック)


○南阿蘇村・田園地帯(宵)

   山裾の小高い丘に人家が並ぶ。すでに人家には明かりが点いている。

   ワゴン車は走りやすい平地の田園地帯を走る。

   車内でメンバーがきょろきょろ見渡している。

マンキー「なぁリディー、泊まる場所どこや~?」

リディー「私、予約したの、この辺のはずよ~」

チョー「暗くてよぉわからへんな~」

   助手席のヨーヘイ、ケータイとカーナビを見比べている。

ユーヘイ「もう近いっすよ。次の角右です」

マサ「あの辺りか?」

   ワゴン右前方に小高い丘の上に在所の灯りが見える。


○ゲストハウス・リトルアジア前~駐車場

   袋小路のような集落を縫うように進む。

   各家の庭先には温かなオレンジの灯り。

リディー「あれやん、あれ!」

   丸太造りの三角屋根の建物が見える。

マサ「うぉ~、いいとこやん!」

マンキー「あの建物に泊まるの?」

リディー「ううん。別のログハウスを一つ借りてるのよ」

マンキー「うぉ~、リッチ~!」

リディー「バーベキュー代入れても、1人、2000円よ~」

   全員、一斉に「うぉ~!」

マサ「よく見つけたな、リディー!」

チョー「天才や、天才!」

ヨーヘイ「金欠やから、助かるわ~」

   リディー、得意そうな顔。

マサ「それじゃあ、入るで~」

   車が敷地に入り、建物脇に広がる林に囲まれた空き地に停める。

                    (カットバック、終わり)


○同・バーベキューコーナー(夜)

   石造りのテーブルに穴を開けた炉に炭火が熾っている。

   網の上に肉と野菜、机の上には紙皿とタレ、そしてビールなどの缶。

   テーブルを取り囲むコの字のベンチにメンバー全員が座っている。

   皆の顔が赤く、笑い声が賑やかしい。

   シアがスマホで自撮りをする。

マンキー「また自撮りしてる~!」

チョー「お~、また自撮りか? この自撮り仙人め!」

シア「自撮り仙人違う、変な名前つけるなぁ!」

   と、シアは膨れる。

チョー「その写真をどこにアップする気だ?」

マンキー「誰に送る気だ、彼氏か~⁈」

シア「彼氏いない、セクハラよ!」

   と、ゲラゲラ笑う一同。

   端の席で、疲れた笑顔のヨーヘイ。

チョー「どうせなら、みんな一緒に撮れ!」

マサ「そうや、集合写真とろうぜ!」

リディー「私、撮るね!」

   と、リディーは席を離れてスマホを持つ手を目一杯伸ばす。

リディー「それじゃあ、ポ~ズ!」

   全員カメラ目線。ヨーヘイも笑顔を作る。

   シャッター音。各々席に着き、食事に戻る。

   手すりに肘をつくヨーヘイ。

マサ「ヨーヘイ、気分悪いんか?」

   と、隣の席のマサが声かける。

ヨーヘイ「いや、すんません、なんでもないです」

   と、ヨーヘイ顔を上げる。

ヨーヘイ「ちょっと酔いが回るのが早かったみたいです」

マサ「大丈夫か?」

リディー「ほんま~、顔真っ赤よ!」

   と、マサの隣のリディーも心配そうに声をかける。

ヨーヘイ「大丈夫、大丈夫! 僕の家系、酔いやすく、醒めやすいんです」

マサ「ほんまか~? 無理やったら早めに休みな?」

チョー「おぃみんな、こっち見ろ!」

   机を挟んだ向こう側のチョーが、シアを指差す。

チョー「さっきの自撮りは、シアの家族に送ってたんだと!」

マンキー「それでさ、このパーティーの様子を、台湾の家族に届けたいってさ!」

マサ「い~じゃん!」

リディー「そうしよ~!」

チョー「スカイプ繋がるか?」

シア「ちょっと待って……」

   と、シアはスマホを操作している。

シア「できた~!」

   と、シアはスマホをメンバー達に向ける。

マンキー「いぇ~! シアのお父さん、お母さん、見てる~!」

リディー「好久不見!」(T・お久しぶりです!)

   シア、スマホ画面を自分に向け、手を振る。

シア「大丈夫、見えてるみたい」

   チョー、背筋を正し、胸を張ってお辞儀する。

チョー「娘さんに、お世話になっています」

シア「世話ってなにか、バカ!」

   全員笑う。

マサ「お父さん、お母さん、娘さんは元気にやってま~す!」

全員「いぇ~い!」

   ×  ×  ×

   星が煌めく済んだ夜空。ただ一つ灯りの目映いバーベキュー場の一画。

   ベンチの上に寝そべるチョー。その上にマンキーが重なって寝そべる。

チョー「マサ!」

マサ「まじかぁー!」

   マサも上に寝そべる。全員、顔が赤い。

チョー「ヨーヘイ!」

ヨーヘイ「俺が乗ったら、死ぬで⁈」

   目がトロンとしている、小太りのヨーヘイ。

チョー「乗れ乗れ!」

マンキー「はよして、苦し~!」

ヨーヘイ「いや、せやから!」

   と、いいながらマサの背に寝そべる。

マンキー「うっほほ~!」

リディー「私も乗る~!」

   リディーも重なる。

シア「私、撮るね!」

   全員、ゲラゲラ笑う。やけくそ気味に爆笑するヨーヘイ。

   ×  ×  ×

   テーブルの上、すでに食材は尽きている。

   マサがスマホを見る。

マサ「おぃ、もう12時過ぎてるで!」

   全員がスマホで時間を確認する。

チョー「ほんまや!」

リディー「何時からバーベキューしてた?」

マサ「7時すぎからやから、4時間以上もしてるな!」

ヨーヘイ「明日も早いから、おひらきにしましょうか?」

マンキー「そうしよー」

   全員が、網の上の残った具材を突っつく。

シア「洗い物は?」

   皆、少し考えて、

マサ「もう遅いし、明日の朝やろうか」

   皆、口々に「賛成」と呟く。


○ログハウス・内(深夜)

   丸太造りのログハウス。やや手狭で、10畳程の一階部と、横長のロフトに

 分かれている。

   メンバー全員が次々と入ってくる。

マンキー「おー、コタツがある!」

   一階中央に掘りごたつが据えられている。マンキーが入る。

マンキー「UNO持ってきたからやろうぜ~!」

チョー「ええなぁ!」

マサ「こら、もう寝な……」

マンキー「ちょっとだけ~」

   チョー、マサもコタツに入る。

リディー「私、どこで寝ればいい?」

マサ「あ、そうやなぁ~……」

   と、マサは辺りを見渡す。

マサ「男は一階、女の人はロフトで布団敷いて寝るってことでどう?」

チョー「賛成や」

シア「いいと思います~」

マンキー「でも、一階に布団4つも敷けるかな?」

   皆が一階をキョロキョロ見渡す。

マサ「それじゃあ、誰かもう一人ロフト上がるか?」

   ヨーヘイが静かに手を挙げる。

ヨーヘイ「あの……皆さんUNOするなら、僕ロフトで寝ててもいいっすか?」

   マサ、リディー、シアが了解する。

ヨーヘイ「すんません~」   

   と言いながら梯子を上る。

   他のメンバーはコタツに入りUNOを始める。

   ヨーヘイは布団を敷き、1人暗がりで床につく。




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