4・16 地震の日

@AL_chan

第1話その前日①

○サンフラワーフェリー内・大部屋(早朝)

   雑魚寝の大部屋。客が寝ていたり、歩き回っていたり。

   ヨーヘイ(28・男)が薄い毛布をめくり、起き上がる。

ヨーヘイ「見てくださいよ、マサさん。別府に着きましたよ!」

   マサ(30・男)も上体を起こす。

   ヨーヘイは立ち上がり、外周廊下へと出るドアへと向かう。


○同・外周廊下~甲板(早朝)

   朝日のきらめく海を見下ろす廊下。

   ヨーヘイは満面の笑みで廊下を歩き、甲板へと出る。

   遠くに別府の街並みと海岸線が見える。

   腕を横に広げ、風を体で受ける。


○別府港ターミナル(早朝)

   サンフラワーが接岸する。

   ×  ×  ×

   ターミナルのエントランスから、人がちらほら出てくる。

   歩いて港を出たり、タクシーを拾ったりしている。

   ヨーヘイとマサが出てきた。ヨーヘイは登山用ザックを、

   マサはキャリーバッグを携えている。

   ロータリーに一台のワゴン車が停まる。

   ワゴン車の窓から、チョー(31・男・香港人)、リディー(25・女・台湾人)、

   シア(25・女・台湾人)、マンキー(23・男・韓国人)

   が顔をのぞかせた。(チョーは運転席)

マンキー「おー、着いたかー!」

リディー「マサー、ヨーヘイ~!」

シア「おまたせ~」

   ヨーヘイ、マサが窓辺まで近づく。

マサ「よー、みんな、時間通りのお迎えありがと〜」

マンキー「フェリー、早えぇな!」

マサ「大阪から寝ればすぐやわ」

シア「眠れた?」

マサ「北九州はどうやった?」

車に乗る4人から、良かったという意見が口々に出てくる。

マンキー「焼きカレー、また食べたい!」

ヨーヘイ「いいなー。俺、食べたことない」

マサ「チョーの運転は大丈夫やった?」

マンキー「ちょー、危ない。死ぬかと思った!」

チョー「ちょ、おまえ、ふざけんな!」

リディー「チョー、ちょー、危ないw」

マンキー「チョー、ちょー、ふざけんなw」

チョー「いいかげんにしろよなぁー」

マサ「うわ、チョー、超怖ぇ!」

ヨーヘイ「乗りたくないなー」

   チョー、ハンドルを軽く叩いて、

チョー「私、もう運転しない!」

   チョー、ドアを開けて外へ出る。

マサ「そんなこというなよ~」

   マサ、チョーの肩を揉むふりをする。

チョー「ん~、仕方ないなー」

   と微笑み、運転席に戻ろうとする。

マサ「でもチョー、昨日一日運転してたんやろ?

 やったら運転変わろか?」

   チョー、振り返る。

チョー「まじ、いいの?」

マサ「ゆっくり景色とか見たいやろ?」

チョー「ん~、しょうがないなぁ~」

   チョー、後部座席へと回る。

マサ「その前に、荷物置いていいか?」

   ヨーヘイとマサがバックドアを開けて、荷物を積み替える。


○車内(早朝)

   マサが運転席、助手席にヨーヘイ。中央列にチョー、マンキー。

   後列にリディー、シアが座る。

マサ「それじゃ、出発や!」

マンキー「次はどこやぁ~!」

   と、元気に腕を前に突き出す。

   車が発進する。

チョー「由布院や、ゆふいん」

リディー「何がある~?」

ヨーヘイ「温泉で有名なところやで」

マンキー「まじ、温泉入れるかな~⁈」

ヨーヘイ「由布院はあかん、スケジュールがあるで」

マンキー「まじかぁ~」

ヨーヘイ「代わりに黒川温泉いくがな」

マンキー「お~、聞いたことあるその名前!」

ユーヘイ「温泉パスいうて、一日でいくつも温泉入れるで」

   ハンドルを握るマサを除いて、手を叩いての温泉コールが起こる。

マサ「予定ではどうやったっけ?」

   ヨーヘイ、スマホの画面を見る。

ユーヘイ「今日は午前、由布院行って、昼に黒川行って、阿蘇まで行ければOKやけ

 ど、結構時間あるし、早よすめば高千穂とか草千里も見て回れるかなと……」

リサ「高千穂! 私、そこが一番楽しみ! 滝とボート!」

マサ「いやぁ~、そこまでは無理やろ」


○別府市街地

   ワゴン車が、由布院方面へ向かう市街地の道路を走る。


○車内(朝)

   やや雰囲気が落ち着いた車内。

マサ「よかったら音楽かけていい?」

マンキー「おぉー、いいぞ!」

チョー「マサ、スマホ貸せ」

   マサ、スマホをチョーに差し出す。

チョー「どうやって聴く?」

マサ「BlueToothって、この車ついてたかな?」

シア「調べるね」

   サラ、自分のスマホを操作する。

ヨーヘイ「あ、取説ありましたよ」

   と、ダッシュボードを開ける。


○県道11号(朝)

   勾配の急な山道を行く

   Royal Concept の On Our Way がかかっている。


○車内(朝)

   リサが身を乗り出し、窓の外を指差す。

リディー「なにあれ!」

   チョー、マンキーも身を乗り出す。あと3人は振り向く程度。

チョー「山や、山!」

マンキー「かっこいい~!」


○由布岳のふもと(朝)

   新緑の芽吹く由布岳の脇をワゴンが走る。


○車内(朝)

ヨーヘイ「なつかしー、昔これ登ったわー」

マサ「登ったことあんの⁈」

ヨーヘイ「昔、大分県に出張で住んでいて、ついでに旅行したことあるんすよ」

マンキー「登れるの⁈」

リディー「登ろー!」

   賑わい立つ車内

ヨーヘイ「いや、今回は無理やって。3,4時間はかかるで!」

チョー「なんやー」

リディー「残念な~」

マンキー「じゃあ、近くまで見に行こう!」

   賛成コールが起こる。

ヨーヘイ「ちょっ、予定にないて……」

マサ「しゃあないし、とりあえず駐車場入るでー」


○由布岳登山者用駐車場(朝)

   県道の脇にある未舗装の駐車場。やや盛況。

   ワゴン車がスペースを見つけて停める。正面に由布岳。

   脇の由布岳登山口に2,3人程の登山客グループが、

   ちょっとずつ、しかし途切れることなく入っていく。

   ワゴン車から全員が出てくる。

マンキー「うぉー、ちょーキレ~!」

シア「ほんと、キレイね~」

リディー「早く、行こう!」

チョー「いそげ、急げ!」

   チョー、リディー、サラ、マンキーがはしゃぎながら登山口へ向かう。

   後ろをつられて小走りでマサが、その後ろを呆れながらヨーヘイが、

   歩いてついていく。


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