三章(6)
「はあ、ここが、そうなのか」
「そう。ここが、そう」
秋野の言う「買えるところ」とは、ぱっと見た感じは普通の民家だった。
色褪せた「たばこ」という看板と、うっすら見えるアイス用のショーケースがなければ、絶対に入ろうとは思えない。いや、あっても入りたくはない。
「ねぇねぇねぇ。どうするの。私はお酒の方が気になるかな。あ、でもでも、もちろん煙草も吸ってみたいかな。そっちは一箱で良いよね、お酒は二本買っちゃおっか。違う味が良いよね?」
「……落ち着け」
秋野の頭を軽くはたくと、あう、と情けない声を漏らす。
お酒を飲む前から酔ってどうする。
僕だって、そりゃ興奮してる。だが、学生相手に酒煙草を売るような店であっても、いかにも、「今から僕達、やります!」って顔して入っちゃまずいだろう。親に頼まれたから仕方なく来てるんですけど? みたいな顔か、そうでなければ、成人ですが? と何食わぬ顔で買うのがマナーってやつだろう。そうだな……。
「え、何で脱ぎ始めたの有川君。こんなところで、二人きりだからって、そんな」
「何を勘違いしてるか知らないが、制服には校章が入ってるからな」
ジャージなら卒業後も着る……かもしれない、そういう人もあるかもしれないが、制服はよろしくないだろう。
「何か手馴れてるね」
「まさか」
僕は成績が悪いだけの、極めて健全な学生だ。そんなことしたことあるはずがないじゃないか。今日までは。秋野と会うまでは。
ふーん、と言いながら、秋野も脱ぎ始める。下着姿になったらどうしよう、こいつならやりかねんと思ったが、中にちゃんとシャツを着ていた。全く色気がない奴。真っ黒。買い物の時と言い、こいつ、ファッションに興味がないのか。
「いいか、偉そうに言ってるけど、僕も相当興奮してるし、ビビってる。選んでいる余裕なんかない」
「うん」
「ぱっと目に付いたものを、さっと買って出るぞ。僕は煙草、秋野は酒だ」
「分かった。お金はどっちが出すの?」
「ん、じゃあ僕が出すよ。千円あればいいかな」
「いいと思うの。後で半分出すね」
別にいいけどなぁ、そんなの。まあでも、今後揉めないためにも、きっちりしてた方がいいのかな。今後。今後?
秋野が扉に手をかける。
「じゃあ、行くよ」
「お、おう」
ドキドキの未成年飲酒喫煙、スタート。
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