三章(2)
「ねえ、今度デートしない?」
たまたま早く登校した朝に、浅倉に告げられた。
他にクラスメイトはおらず、なんならこの静けさから察するに、他のクラスにもまだ誰も来てないのではないだろうか。
浅倉はいつもの通り、飄々としているが、それでも冗談を言っている風ではない。はて……。
「はあ、デート、何で」
思っていることがそのまま口をついて出た。
「何か最近の敬、楽しそうだし? いいかなーって」
なんだそりゃ。
答えになっていない。
それに、アカリ、じゃない。お前には、相田の野郎がいるじゃないか。
「いや、お断りだよ。勘弁してくれ、そういうのは」
「ふーん」
言いながら、怒りと、何故か悲しさを覚えていた。
振り上げた拳を、何処に卸したらいいのか分からない、みたいな、衝動的で頼りない何かが奥底から湧いてくる。
彼氏がいながら、僕のようなものにちょっかいを出す。そんな単純なことに怒っているわけでも、ましてや悲しんでいるわけでもない。
もっと根源的な、僕の人生に関する何か大切な部分を否定されたような気がする。
そんなやつと、へらへら笑って遊びに行けるものか。
「秋野さんとは行くのにね」
「はあ……?」
何を言っているんだこいつは。
誰にも見られていないとは思っていないけど、それで誰かに何かを言われる筋合いはない。ましてやお前には、絶対に。
「こわっ。いやいや、怒らないで。敬と遊べて羨ましいなって、それだけ。引っ掻き回そうだなんて思ってないって」
「……」
もう、遅い。
これだけのやりとりで、僕の心は十分に引っ掻き回された。上等なスープで満たされた鍋に、一握りの泥を入れて混ぜられてしまった。
それほどまでに、デートの誘いは魅力的だったのだ。
「ごめんね。今のは全部忘れて! あーあ! 振られちゃった、あたし。だっさいなー。あはは」
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