二章(10)

「ご飯ね。コンビニぐらいかな、近くにあるのは」


 すこしがっかりしたような秋野の言葉。

 そりゃそうか。これだけのイベントの後、二人仲良くおにぎりを齧るなんて、あまりにも味気ない。

 イベント?


「まあ、そうだよね。うん。喫茶店なんか入ったら、噂されちゃうもんね」


「いや、そこはどうでもいいんだけど」


 確かに、やたらと人との繋がりが深いこの町で、いかにも学生な男女二人が、学校の時間に、しかも喫茶店で食事をしていたら目立つだろう。


 下手したらその日のうちに、町民全員の耳に入るかもしれない。

 それはまあ、言い過ぎだけど、教師たちの耳には入るだろうから。


「どうでもいいの?」


「うん、どうでもいい」


 だけど、そんなことはどうでもいい。

 無理心中と比べたら、遥かに些細なことだ。

 僕達は何だかんだ言って、学生なのだ。若くて、浅くて、情けないのだ。

 意味なく暴れたくなったり、叫んでみたり、学校をサボったりして当然なんだ。そんなことで人目を気にする方がどうかしてる。


「そっか。でも、私は気にするかな」


 あれ?

 私も気にしないよ、とか言うシーンじゃないのか、これ。


「そっ、そうなのか」


 やべ。焦りのあまり、気持ち悪くなっちゃった。


「うん。ねえ、有川君。料理は得意?」


 料理? 得意かって?

 いきなり何を言い出すんだ。どういう文脈だ……分からん。適当に誤魔化すか。


「まあまあ、かな。お湯を注ぐか、レンジで温めたら、大抵の料理は再現出来るからな」


 インスタント最高。

 僕の体は、三分か五分で出来るもので構成されている。


「そんなことだろうと思った」


 小石を駐車場に投げる秋野。呆れたというより、手持無沙汰になってやってるだけみたいだ。電話中に落書きするみたいな。……いや、それにしては動きがせわしない。もう一つ、さらに一つと、次々投げ込んでいる。虫も殺せなさそうな速度で。例えるなら、緊張で言葉が出なくて、そうだ、もじもじする感じだ。


「ええっと、もしも、何だけど。ほら、コンビニでも人目はあると思うの。だから」


「う、うん。落ち着いてからでもいいんだけど」


 何か知らんけど、こっちまで緊張してくるじゃないか。

 他人の家で無防備に寝て、着替えを目撃しても平然としていた秋野はどこに行った?


「いや、大丈夫。ちゃんと、言える。有川君」


「はい」


「私が作ってあげるから、ご飯。うちにくる?」


「はい」


 マジ?

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