二章(8)

 結局、五分ほど笑っていただろうか。

 落ち着いてきたところで秋野が口を開いた。


「それで、どうする? ドライブ、行くの?」


 ふふ、と笑い声を漏らす。当然だ。僕だってまだ完全にはおさまっていないのだから。二人してニヤニヤして、本当に気持ちが悪いな。


「ああ、行こう。後ろでしがみついてたら良いんだろ?」


 服を着替えながら僕は言う。似合ってるかとか、デートに相応しいかとか、心底どうでもいい。


 もう、なんか、何もかもが投げやりな気分になっていた。

 着替えを見られたから、何だっていうんだ。

 男のプライド? そんなもん捨ててしまえ。

 無免許運転? 補導されるか? 下手すりゃ退学か?

 ――どうでもいいじゃないか、そんなの。


 なんなら、スピード出しまくって、海に落ちるか、何かにぶつかって、死んでしまっても、もう構わない気がしてきた。


 それでこそ僕の、僕達の人生にふさわしい。

 馬鹿な学生の馬鹿な暴走。


 その挙句、死んでしまうなんて、結構素敵なことなんじゃないか。この世で唯一、綺麗なものがあるとすれば、案外こういうものなんじゃないのか?


「私もそう思うな」


 おおっと。御見通しか。

 わかるよ、同じだから、とは秋野の言葉だったな。


「じゃあ、いこう」


 秋野が玄関に向かい、僕が後ろに続く。

 いこう、って言ったか。どっちなんだろうな、それは。


「取り敢えず、この辺りを走ろうね。街まで行くとリスクもあるし」


 それは人が多いから補導されるリスクなのだろうか。それとも、もっとどす黒くて美しいものなんだろうか。聞かない。聞けないし。


 だから、僕が言うのは、こうだ。


「くれぐれも、安全運転だけはしないでくれよ」


「うん。分かった」

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