二章(6)
下の奴、秋野なの?
確かに、顔も分からなかったし、言われてみればそれぐらいの身長……だったか?
「いやいやいや……」
あのやかましいバイクが、仮に原付だとしても、僕達はまだ免許を取得出来る年齢ではない。誰かに乗せてもらってきたとか? 周りに特に人は居なかったけど……。
――振動音。言わずもがな。
『遅い。部屋に行くね』
待って待って。早いって行動が。
僕は今、何をどうしたらいいんだ。というか、何か出来るほどの時間が有るのか。
慌てて辺りを見渡すが、秋野が出て行った時と大して変わりは無いはずだ。布団。布団は、そうか。ええい、蹴り飛ばしておこう。
お世辞にも綺麗とは言えないフォームで、布団に蹴りを入れると、思ったより埃を撒き散らしながら部屋の隅に移動する。今度ちゃんと綺麗にしておこう。……今度?
まあ、いい。次は何だ。あと十秒かそこらで部屋には辿り着くはずだ。部屋……は取り敢えず良し。良くないけど。後は……僕自身? あ、着替え、というか顔も洗ってない。
洗面台の鏡に飛び込みそうな勢いで洗面所へと駆け込み、まず口に水を含み、顔面を乱雑に洗う。そして内容物を吐き出し、口元を改めて洗い、その辺にあったタオルで拭く。この間、わずか五秒。
着替えまで行けるか? いや、普通に考えたら部屋の前に来ても、チャイムを鳴らすだけで、勝手に入ってきたりはしないだろう。だったら普通に着替えて良かったんじゃないか? 全く。僕と言う奴は愚かで困る。
拍子抜けした気分で、皺になった制服を上下脱ぎ、下着だけの姿で着替えを探す。洗濯機の周りを漁るが、流石に一回着て洗ってもないものを着るわけにもいかない。一旦戻るか。
ガチャ。
「お邪魔します」
音がして振り返ると、それと同時に最近になって良く聞く声が響いた。秋野。何か変な服装の。
「……?」
いまいち状況が掴めない。なんだこれ。
「今からお風呂なの? ごめん。待っておくね」
「えー……」
何で勝手に開けるの? っていうか、最悪チャイムぐらい鳴らそう? あと、同い年の男が半裸なのに、そんな反応なの? 慣れてるの?
僕の心境なんかどうでもいい、という感じで秋野はずかずか上がり込み、リビングに勝手に座り込む。本当になんなんだこいつ。
「どうぞ? お構いなく」
「いや、お構いあるだろ」
ようやく喋ることが出来たが、秋野は首を傾げている。なんだそれ可愛いなクソ。
「家主の有川君が、私に許可を取る必要はないと思うの」
「そこじゃない……。まず、何で勝手に入るんだ、チャイムぐらい鳴らせ」
「分かった。次からそうする」
次があんの? というかそれはどうでもいい。他に聞きたいことが多すぎる。
「何なんだあのバイク」
「名前は知らない。お兄ちゃんの借りてきた」
お兄ちゃん? ああ、兄の事か。知り合いに兄弟が居る人がいないから、都市伝説かと思っていた。……そこじゃねぇ。
「……乗ってきたのか? 借りてきたってことは。僕の勘違いじゃなければ、まだ免許を取れる年齢じゃないと思うんだが。それとも、あれか、留年してるのか?」
「私が留年なんてするわけないの。それに、免許がなくても運転は出来る」
出来ねーよ。というかしちゃダメだろ。とんだ優等生も居たものだ。本当に僕の知っている秋野か?
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