二章(5)

『もうすぐ着く』


「……ひえっ」


 早すぎるって。どこかで待ち伏せしてたんじゃないだろうな。


 視線をほんの少し上げると、携帯の画面には六時三十二分と表示されていた。なんだこいつ。こんな時間に何をやっているんだ? そして僕も何をしているんだ? こんな時間に起きてる高校生、他に居るのか? 


 ……ああ、浅倉の奴なら、多分。

 でも、どうでもいいか。そんなの。


 折角のデートの誘いだし、着替えるとするかな。と言っても、しわくちゃの制服から、くたばりかけのシャツに替えるだけだけど。くたばりかけのシャツって何だよ。


「ん……?」


 人がやっと重い腰を上げたと思ったら、何だか部屋の外が喧しい。ヴォンヴォンいってやがる。これはアレだ、排気量の多いバイクとか、そんなのが停まっているときの音だ。この辺りは暴走族とか、その手の輩が居ない事だけが、唯一の取り柄だというのに。


 くそう。顔を拝んでやる。

 そんで相田の野郎だったら、何か投げてやる。


 僕は自分の部屋だというのに、抜き足差し足で窓に寄り、音を立てない様に慎重に開ける。いや、怖い奴だったらアレだし。


 カーテンと窓で最大限自分を防御しつつ、昨日、相田が居たところに視線を投げる。


 中型……大型? 細かい区分は知らないが、思ったよりもいかついバイクが停まっている。全く知識のない僕には、取り敢えず原付でないことぐらいしか分からない。


「……」


 そのバイクの持ち主だが、ヘルメットで顔が分からない。服装……も何て言うんだろう。バイク乗る人が着てそうなやつ、としか。とにかく何も情報が無い。バイクに跨ったまま、辺りを見回している。こっちに気付きそうだな。部屋の中に戻ろう。


 ついでだから、秋野にも連絡しておくか。

 なんかヤバい奴が居るから、気を付けてとか。


 いつからこんなに気遣いが出来るようになったんだろうな、僕は。いや、いつから出来なくなったんだろうな、の方が正しいか。


 ――振動音。秋野。


『着いたよ』


「……ん?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る