二章(3)

『いいって。それで何の用なんだ』


『今日の放課後、ヒマ?』


 良かったら一緒に帰ろう? とか?

 いやいや、絶対そんなんじゃない。ありえないだろ、そんなこと。昨日がおかしかっただけだ。そうだな、なんか面倒で、それでいて不可避の、例えば雑用かなんかを押し付けられるに決まっている。


 考えろ。集中して文章を打て。


『いや、忙しい、予定でいっぱいなんだ。すまないな』


 ……これは駄目だ。


 慌てて画面を連打し、文章を削除する。


 流石の僕でもこれは分かる。駄目だ。こんなの送るぐらいなら既読無視でもしてた方がマシだ。どうするか。何だって朝からこんなに悩まないといけないんだ。


 そもそも、何故か好かれてしまったという説は、未だに消えていないんだよな。ということはマジにデートの誘いかもしれない。かといって、自分から聞くわけにもいかないし、それとなく聞くような高度なテクニックは生憎、持ち合わせていない。


 携帯のやり取りで良かった……。目の前に居たら、気持ち悪いと思われていたに違いない。……待てよ。別に思われてもいいよな。それで面倒な絡みが無くなるなら、却って助かるんじゃないか? そうだろう。そういう奴だったろう、僕は。


 よし。そうと決まれば、無視だ無視。


 風呂にでも入って、さっぱりしよう。それからだ、色んなことを考えるのは。


 ――振動音。


 差出人は勿論、秋野。


『デートだよ』


 こいつは人の心が読めるのか? そういえば、思ってることも分かるよ、みたいなことを言っていたような気がする。


 やばい。マジの奴じゃん。


『生きるための手伝い、してくれるんだよね』


 連投するなよ、怖いよ。生きるための手伝いと、デートって。何の関係があるんだよ。


 しかし、生きるための手伝いと来たか。確かに、そんなことも言ってた。なんとなく、買い物には付き合ってしまったとはいえ、了承した覚えはないんだけど。


 さて、何て返したものか。……そうだ。


『するけど、今日は学校サボろうと思ってたから。今すぐ行くなら、良いけど』


 どうだろう? 一旦、引き受けたように見せつつ、適当な理由で断る。昨日の秋野は、死にたがっているくせに、世間体を気にしているようだった。学校をサボるなんて、まずしない、と思う。それに、普通の人ならこんな文面、見た瞬間に呆れるに違いない。こいつと関わるのはよそう、って具合に。


 ――振動音。


 もはや慣れたものだ。

 さてさて、内容は?


『わかった。今行く』


 どうやら、普通の人じゃないみたいだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る