二章(2)

 また思い出したくもない夢を見た。ずっと忘れていたのに、忘れたままでいたかったのに、秋野と関わってから何かがおかしい。

 その秋野だが、起きたら居なくなっていた。ご丁寧にタオルケットは畳まれ、コップは洗われていた。念のためベランダに出て下を見てみたけど、特に死体が転がっているとかそういうこともなかった。


 何て自由な奴なんだ。一言ぐらい残してくれたらいいものを。


 ……だから昨日、猫と楽しそうにしてたのかな。波長が合うのかもしれない。……さて、馬鹿なことを考えてないで、今日も生きるかな。


 布団を蹴り飛ばして立ち上がる。慣れないことをしたせいなのか、少し肩が凝っている。


 体育とか有ったっけ、とか考えながら時計を見ると、六時を少し回ったところだった。どうせなら遅刻ギリギリに起きたら良かった。何も考えないで、学校に向かうのに。

 無駄な時間が出来ると余計なことを考えていけない。

 その筆頭が秋野のことだろうな。


 ――ヴヴヴ。


 何かが振動している。目覚ましかなと思ったけど、そんなの設定していない。だが鳴っているのは携帯で合っているらしく、視界の端、充電器に刺したままの携帯が明滅している。


「電話……? メッセージ?」


 この僕に連絡を取ろうとするやつがいるとは驚きだ。相田か浅倉だろうか。教えたことあったっけ?


 携帯を手に取り、ロックを解除する。


『起きた?』


 とのことだった。差出人は……秋野。絶対に教えていないはずだが。

 でもいたずらするような知り合いも居ないしなぁ。多分本人だろう。一応カマかけとくか。


 僕はアプリを開いて、現代の高校生にあるまじき遅さで文章を構成する。フリック入力に慣れていないのである。


『手帳は持って帰った?』


「……うわ、キモ」


 一瞬で既読が付いた。

 待ち構えていたのだろうか。それともこんなものなのか?


『その節はどうも』


 あ、本人っぽい。何か分からないけど言いそう。


『それで、何の用? というか何で連絡先知ってるんだ』


『泊めてくれたお礼』


 は? どっちに答えたんだこれ。というか、どっちでもおかしくないか。これだから文面でのやりとりは嫌なんだ。


『お礼に連絡先教えてあげたの。嬉しいでしょ』


『いや別に』


『クラスの人たちなら大喜びすると思うの』


『一緒にするな』


『確かに。ごめん』


 謝っちゃった。連絡先交換が褒美とか言うぐらいなら、もっと偉そうにしとけよ。

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