二章

二章(1)

「アリカくん」


 学校からの帰り道、いつもの声に呼び掛けられる。

 振り返ればアカリが小走りで追いかけてきている。


「遅かったね、アカリ」


「アリカくんが早いんだってば。今日も部活でしょ? 行かなくていいの?」


 ふうん。

 学校の方へと視線を向けるけど、ここからじゃ校庭は見えやしない。微かに掛け声が聞こえるぐらいだ。


「いいんだよ。俺は天才だからさ」


「またそういうことを言う。ふふふっ。大会だって近いんだから、頑張らなきゃでしょ?」


「頑張るのはあいつらだけだよ。今度の大会はちょっと出られないから」


 ポケットに入れていた鍵を上に放り、キャッチする。その端には将棋の駒を模したキーホルダーがつけてある。


「ああ、将棋」


「そう、将棋。大会の日程が被っちゃうからさ。どっちかっていうなら、まあ将棋かなって」


 別にどっちでもよかった。ただなんとなく、強いて言うなら、最近ちょっと暑いから体動かすのもしんどいかな、ぐらいの気分で選んだのだった。別に今からでも変えようと思えば変えられるくらいの意志である。


「でもさ、アリカくん抜きで試合に勝てるの?」


「さあ? 勝てるかもしれないし、勝てないかもしれないし。別にどうでもいいよ」


「ほんと、自分勝手だよね」


 ふふふ、とアカリが悪意のない、無邪気そのものみたいな声で笑う。

 どの口が言ってるんだか。


「アカリこそ、俺とサボってないで、美術部か、水泳部に顔を出したらどうなんだ」


「真面目なアリカくんと違って、どっちも遊びでやってるから。賞とか出す気ないし。それに、いつも言ってるけど水泳の方は部活じゃなくてクラブ!」


「あれ、そうだっけ」


 そういえばそんなことを言われたような気もする。

 でも、遊びならどっちでも良いような。




「ねぇねぇ、アリカくん。約束、覚えてる?」

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