勇者の吉井 光彦と魔王のイブリス

「まさかこんな魔法があるなんて・・・・・・それに凄い綺麗――」


 セルティは何かしらの方法でアルトとの会話を聞いていたらしく、リネットはセルティの魔法でセリスとアリシアの魔法で勇者の元に転送された。

 

 この転移魔法を使わなかったのは「旅も勉強の一つ」――つまり、リネットの事を想っての事だったらしい。


 試験に合格し、勇者の元に転送されたのは――純白の綺麗な建造物と自然とが調和した街だった。そして遠方には純白の城が見える。

 シルヴァニア王国の城も立派であるがこの城に比べると見劣りしてしまう。


「信じられないかもしれないけどここ魔王の城下町、あの綺麗な建造物が魔王の城よ」


「え、そうなんですか!?」


 そこは素直に驚いた。


「確かに姫様――人間以外の種族が沢山見掛けますね」

 

 と、セリスが辺りを見渡す。

 人間もいるが、獣人にエルフやドワーフ、リザードマンなどもいる。

 大きなゴーレムが何やら荷運びをしている。

 ペガサスやグリフォン、飛龍に跨がった騎士が空中を舞う。

 翼人やハーピーまでいた。


 

「あれってもしかして世界樹?」


 ふとリネットの瞳にある巨大な大樹が目に映った。

 するとここは話に聞くエルフの里なのだろうか?


「そう。ここはエルフの里の近くであり、神の居る場所の近くであり、そして魔族と人とが暮らす理想郷を目指す実験都市「イブリア」なのよ」


「イブリア?」


「ここを統治している魔王の名前――ちなみに彼女とは連絡を取り合う仲なの」


 セルティはとんでもない事実を暴露する。


「あの、セルティさんって一体何者なんですか?」


「さあ?」


「さあって自分の事ですよね?」


「うん。そうよね」


「・・・・・・自分で好きで考えなさいって事ですね」


 ハァとため息をついてリネットは諦めた。


「あ――いたいた。お久しぶりですセルティさん」

 

 すると男の声がした。

 黒髪の少年だ。

 黒尽くめの変わった格好をしていた。

 勇者として召喚されたあの日と変わらない。


 この世界に一時とは言え、希望の光をともした勇者様の姿だ。


 元気そうで明るい少年と言った感じでとても勇者には見えないが、間違いなく歴戦の勇士から認められた勇者だった。

 

「どうも勇者君。里帰りはしたの?」


「ああ、事情は話した。親からは「チーレム来た」とか逆に理解力があって困惑したぐらいだよ」


「どうやら女性には不自由してないようね」


「まあな――まあここで立ち話するのもなんだし、場所を移そうか」



「ふーん、アンタがこの世界にミツヒコを呼んだ国の王女様ね」


 玉座の間。

 そこに魔王イブリアと呼ばれている少女がいた。

 角を生やしている。

 赤い髪のツーサイドアップの髪の毛。

 純白のドレスに身を包み、とても綺麗な少女だ。

 

 周りにも絶世の美女がチラホラ見掛ける。


「はい。その通りです」

 

 そう言って頭を垂れる。

 付き添いの二人はギョッとなったが――


「私魔王なんだけど人間の王女様が頭下げていいの?」


「よいのです。それに――私は王女には相応しくない世間知らずの小娘でしたから」

 

「そう――取り合えず頭上げてもいいわよ。本当は歓迎したいけど、どうしたもんしから? 正直シルヴァニア王国には恨みがあるんだけどね――」


「やはり公爵家のことですか?」


「そう。あのボンクラ野郎のせいで私の大好きな勇者が死にかけたのよ!? その落とし前はキッチリつけさせたけど、それでも腹の虫が治まらないんだから!」


「魔王様、そんな言葉遣いしちゃいけない。メッ」


 と、傍に控えていた水色髪でボブカットのやたら胸が大きいメイドが注意する。


「あごめんなさい。ちょっとヒートアップして・・・・・・ともかく話の内容によってはシルヴァニア王国だけでなく、教会も他国も敵に回す覚悟はあるわよ」


「ですが他の魔王にその隙を突かれるのでは?」


 脅し文句にリネットは冷静に対処する。


「そうなのよね――そこが問題なのよ。この世界に今居る魔王は結構いるけど、世界征服を望んでいる奴さえ倒せば少なくとも、貴方達の言う魔王軍は崩壊するわ。でも倒したら倒したらで人間界がメチャクチャになるからね」


「魔王を倒したら人間界がメチャクチャに・・・・・・魔王の脅威がなくなるから・・・・・・つまり人間同士の争いが起きる・・・・・・」


「そう。天界の連中もそれをよしとしてないのよ。魔界からすればどうでもいいけど。厄介な奴が――例えば昔封印された化け物とか一度倒された魔王が復活したりとか――勇者召喚もそもそも天界の人間からすれば反対だった」


 セリスが「何か話が壮大になってきましたね姫様」と言うが本当にそう思う。

 とにかく話を聞かねばなるまい。

 

 こっからは俺が説明するよと勇者が前に出た。


「正直言うと、天界において勇者召喚ってのは褒められた行為では無いらしいんだ。いや、異世界との関わりその物が危険なんだ」


「異世界との関わりがですか?」


「だってそうだろ? 魔王達だって元々は魔界と言う異世界の住民だ。その結果起きたのが魔王軍と人類軍側に別れての生存競争に発展したんだから。勇者召喚は天界においては特例として認められていると言う感じだな」


「あの・・・・・・天界は何故この窮地に手を差し伸べてはくれないのですか?」


「人々の為に頑張った勇者の俺がどうなったか知らないとは言わせないよ? そもそもこの世界を侵略していた魔王を倒した後、そのまま協力体制にあった他の魔王を倒して俺はイブリスと一緒に平和宣言を訴えるつもりだった。だが公爵家のボンクラや教会の連中に他国の連中が出張って来て台無しになった」


「公爵家は知ってましたが教会や他国の人間まで?」


「そうだよ。皮肉にも俺達は敵対していた魔王に助けられた形になったのさ。それで皆何の為に戦ってきたのか分からなくなって来たし、それに味方から後ろから刺されるような状況で戦い続けるわけにもいかず、解散したってわけ・・・・・・俺も警戒は怠ってなかったんだけど・・・・・・公爵家の連中があそこまで馬鹿だったとは。こうなる気はしてたんだけど、まさかあのタイミングで来るとはね」


「・・・・・・」


「あ~姫様? 泣いてるの?」


 リネットは涙を流した。


 確かに残酷な真実だ。

 

 そもそもの話、勇者はこの世界の人間ではないと言う。


 無理矢理呼び出して従わせて。


 危険な場所に放り込んで。


 あまつさえ裏切りさえ許してしまった。


 自分はただ平和な暮らしをしてそれを喜ぶ日を来るのをただ待っていただけ。

 

 何不自由の無い小娘はそんな事も分からずに勇者の助けを求めようとしていたのだ。


 今この場で勇者に殺されても文句は言えないだろう。

 

 ガルドやプリスがあんな態度をとったのは当然だ。


 自分も同じ立場なら似たような真似をしただろう。


 やはり私は小娘だった。


「イブリス? どうしようこれ?」


「泣かせるだけ泣かしときなさい。世間知らずのお嬢様がマシになっただけなんだから」


「そう・・・・・・」


 涙を拭い、姿勢を正してリネットは口を開いた。


「セリス、アリシア。私は国に戻ります。勇者殿はもう十分に戦いました。今度は我々が戦う番です」

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