魔法使いのセルティ

 三人一組の女旅はリネットの想像以上に過酷だった。

 モンスターとの戦いだけでなく野盗との戦いまでも経験した。

 特に野党との戦い――初めての人殺しは想像以上に辛かった。


 ガルドの言葉が今なら身に染みて分かる。

 つまりこう言う辛さがあるから籠の中の鳥である方が幸せなのかもしれないと言ったのだ。きっとプリスも自分の事を内心では世間知らずの小娘だと思ったのかもしれない。


 それはさておき、幸いにも勇者のパーティーは比較的王都の近くに固まっている。

 

 次に探したのは魔法使いのセルティであった。


 魔法使いのセルティとは勇者召喚当時はガルドと並んで有名な魔法使いだった。

 長い黒髪で白肌で胸が大きく、妖艶な格好をしていて気分屋な性格で実力は確かだった。

 勇者がいなくなると同時に彼女も一緒に姿を消し、当時は多大な顰蹙を買ったものだ。

 

 他の二人同様にテキトーにあしらわれるかも知れないがそれでもこの旅を完遂したかった。 


 最初はただの国のためを思っての行動だった。


 だが今では自分のために成し遂げたいと感じるようになっていたからだ。


「とうとう来たわね。王女ちゃん♪ 歓迎するわ」


 王都近隣にある村の近くにある森の中を進むと屋敷を発見し、入ると飲み物とお菓子と一緒に歓迎された。室内でも娼婦に間違われそうなぐらいに露出度高めの格好をしているらしい。胸の谷間も丸見えでプリスとは正反対だ。

 長テーブルが置かれた広い食堂に三人は案内される。

 

「その口振りですと監視していたんですね」


 リネットは察しながら温かくて甘い飲み物を口に含んだ。

 レモンティーである。


「ええ。まあね。本当に危なかったら助けてあげようと思ったんだけど――まあこれも人生経験だと思って心を鬼にして監視してたのもあるけど、誰が敵で誰が味方か分からなかったしね」


「どう言う事ですか?」

 

 リネットは食いつく。


「これでも勇者君とは結構仲良かったんだけどね。異世界の物語ではお約束らしいんだけど~大体自分達の国の都合とは言え、勝手に無関係に平和に過ごしていた人間を呼び出すのって常識的に考えて信用出来ないわよね~」


「そ、それは――」


 リネットは慌てて言い返そうとするが――


「勇者は神の遣いの戦士であり、光の救世主である。であるがゆえに、人の為に魔を打ち払うのは当然の義務だ――プリスも最初はそう言ってたわね」


「そうです。その筈です」


「だけど勇者君、実態はこの世界で例えるなら他の国の一般市民の一人でしかないのよ? ただ不幸にも才能があるだけの。突然縁も縁も無い土地に呼び出されて魔王と戦えなんて言われて――正直失踪するのなんて遅すぎたぐらいだわ」


「そんな――では何故戦いを」


「だから貴方世間知らずの小娘扱いされてるのよ。ガルドがキレるのも無理ないわ。案外王様や王妃様も危機感抱いて荒療治のために冒険許可したとか言うオチがあっても納得出来るわ」


「そ、そんなに世間知らずですか私?」


「自覚ないの?」


「ぼ、冒険し始めてから痛感してるのですが・・・・・・」


 本当に自分が世間知らずだと痛感させられる。

 お供の二人もハァとため息をついていた。


「まあお姫様イジメは置いといて――話は・・・・・・そうそう。今の国難を失踪した勇者君に頼って乗り切ろうとか言う甘い考えよね」


「そ、そうですけど――」


「けど?」


「今は――それではダメだと思うのです」


 その一言を聞いたセルティは「フゥン」とヤラシイ笑みを浮かべた。


「正直まだ納得出来ない部分もあります。そうしなければ民の多くが犠牲になる。だけど――本当にこのまま勇者様に頼っていいものかと思うのです」


「ふーん、そう言う考えが出来る様になったのね。で、これからどうする? 王都に帰る?」


「私は真相を知りたい。会って話がしたいです。勇者と――」


「そう・・・・・・まだ諦められないんだ」


「はい」


「真相全部暴露してもいいけど――まあそれは勇者の口から聞きなさい。てかお付きの二人さんは実際どの程度知ってるの?」


 突然話を振られる二人。

 最初にセリスが口を開いた。


「・・・・・・実は私もあまり詳しくは知らないのです」

 

 とセリスが告白した。


「私もセリスと同様ですね。お姫様と同じく真相を確かめるために動いている次第です。それに――セルティ殿の言う通り、王様や王妃様の密命でもありましたから」


 アリシアが衝撃の事実を告白する。

 

「え? アリシア、それ本当なの? お父様やお母様も――私が旅で出た事を知っているの?」


「はあ・・・・・・今だから言いますがだから貴方は世間知らずなんですよ。普通、王女様が行方不明になれば一大事になるんです」


「ではどうして止めなかったの?」


「勝手に一人で飛び出す可能性がありましたからね。ならいっそ見て見ぬフリをして最低限の護衛を付けて旅に出そうと考えたのです」


「そ、そうだったの・・・・・・」


 アリシアの弁にリネットは自分の無知ぶりにとても恥ずかしい思いを感じていた。


「少なくとも王女様は国政に関わらせるのは止めといた方が良いと言うのが強く認識させられました・・・・・・」


 アリシアの台詞にセリスもセルティもウンウンと頷いている。

 恥ずかしさでリネットは体全身が焼けるように熱い。

 頭もクラクラしてくる程だった。

 どうにか気を確かに持って本題に戻す。


「と、ともかく他に知ってる事はないのですか?」


「・・・・・・本当に分からないのです」


「同じく私もアリシアが知っている以上の事は――」


「まあずっとお姫様の傍にベッタリだった二人だとそんぐらいよね。あまり教えたくないけどヒントはあげる」


「ヒントですか?」


「そう。まず貴方が聞いているであろう真実を疑いなさい。例えば勇者の失踪とか、何故公爵家のボンボンが勇者に収まったのか、その後どうして転落人生を歩んだのか――」


「全部嘘だと?」


「いいや、嘘はついてないわ。全部真実よ。まあこれは詐欺師の手口ね」


「嘘と真実――」


 どう言う事だろうかとリネットは首を捻る。

 セルティはハァとため息をついた。


「これぐらい分からないと立派なプリンセスにはなれないわよ。間違っても外交とかやらせたらダメね。勇者君はその辺頭回って賢かったんだけど・・・・・・」


「勇者様ってそんなに賢かったんですか?」


「うん。ガルドも最初は勇者君のこと、世間知らずのお坊ちゃんだとか思ってたみたいだけど、その評価を覆すぐらいに賢い子だったわ。下手な貴族より頭いいわ。ただの一般人だったって言うんだから異世界ってのは恐ろしく進んでる世界よねきっと。間違っても戦争したくはないわね」


「そ、そうなんですか・・・・・・」


 一体異世界とはどう言う世界なのだろうか想像もつかなくなってきた。


「そうよ~まず着眼点からして普通の人間とは違った。勇者と魔王の存在すら疑い、そして私達すら疑ってたらしいけど――まあ馬鹿みたいにお人好しだったから徒労に終わったんだけどね。だからプリスも心許したのよねきっと~」


 などと嬉しそうに語っていた。


「ともかく私が語れるのはここまでよ。そうそう次に行くアテはあるの?」


「えーと次のパーティーの方に会おうかと・・・・・・出来ればモルレード公爵家の方以外で」


「それが懸命ね」


 流石にここまで話を聞いてイヤな予感を感じたからだ。

 今迄伝え聞いていた話は一応は真実ではある。

 だが同時に何か盤面を引っ繰り返すような真実が隠されているのだろう。

 それを知る鍵となるのがモルレード公爵なのだが先述通り何かイヤな予感を感じた。


「プリス、ガルド、私、他にはプリスと同じく監視役として貴族の子がいたわね」 

 

「ああ、知ってます。だけど行方知らずになってて足取りが――」

 

 監視役と言う部分でリネットはもう驚かなくなっていた。

 その貴族の子は確かモルレード公爵家の男児だった筈だ。


「彼は今特殊な境遇に置かれているみたいだし、一緒に会いに行ってあげる」


「え、本当ですか?」


「モチのロンよ」


 セルティはウインクするが付き人二人の反応は違った。


「監視のおつもりですか?」


 セリスは睨み付けるようにして言うがセルティは余裕な態度を崩さなかった。


「まあそんなところね。それに久し振りに会いたいって思ってるしね」


「・・・・・・今はそう言う事にしておきましょう」


 アリシアは納得してない様子だったが旅の同行を認めた。


 新たな旅の仲間を増やしてリネット達は旅を続ける。

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