騎士のガルド
騎士のガルドと言えば、嘗ては知らぬ人はいない程の有名な騎士だった。
騎士だったと言う過去形が付くのは彼もまた勇者パーティーに参加して人生を翻弄された身だからだ。
獅子の様な顔。
鋼の剣の如く鍛えられた褐色の巨体。
重厚な鎧を身に纏い、大剣を素早く軽々と振り回す。
獅子の騎士と言う二つ名まで付いていた。
彼は王都から少し離れた小屋で生活をしていた。
服装も元騎士と言うより木こりの様な出で立ちである。
忠誠心があるのかリネットの顔を見たとたんに頭を付いてひざまつく。
「これはこれは姫様――何故このような場所に」
「それは此方の台詞ですガルド殿。貴方程の騎士が――その腕が必要とされているのにこんな王都から外れた場所で暮らしているのですか?」
リネットは当然な疑問をぶつける。
他の二人は黙っていた。
「ふむ、王都での暮らしが肌に合わなくなってしまったと言うべきでしょうか。本当に国難の時は駆け付けるつもりではいますが――」
「ですが今がその国難の時でしょう?」
「――セリス、アリシア。お前達は姫様の近くにいながらどう言う教育を施したのだ」
ギロッとガルドは二人を睨み付ける。
セリスとアリシアの二人は頭を下げて「申し開きのしようがありません」と頭を下げた。この話の流れにリネットは困惑する。
この旅の始めた時から困惑しぱなっしだ。
「姫様。私は確かに騎士としての誇りはあります。ですがその忠誠は民草へ向ける物であって、王国にはどうしても向けられんのです。それに――言っては悪いのですが私は勇者殿の指南役でもありましてな。失踪させてしまった責任も取らなければ周囲も納得しますまい」
「で、ですが・・・・・・それは――」
「ですがまだ罪がありました。貴方を籠の中の鳥として哀れんでそのままにしてしまった事です」
「私は籠の中の鳥では――」
「私にこうして尋ねて来た理由が何よりの証拠です。勇者殿の手掛かりが欲しければ、勝負をしませんか?」
「勝負をですか?」
☆
ガルドとリネット王女は森から出た広場で木剣を使った剣術勝負をしていた。
ガルドから持ち掛けられた勝負は簡単だった。
剣術同士の戦いで一本でも剣を当てるとの事だった。
ガルドは容赦無く反撃した。
「姫様。その程度では到底真実には辿り着けませんぞ」
「真実?」
「籠の中の鳥――それは一見すると不幸なように思えますが、外の世界で生きて行くと言うのはそれ相応の力が必要なのです。確かにセリスとアリシアは強い。ですがあの二人だけに頼ってこの先の旅を生き抜くのは甘い考えです」
「そ、それは――」
「もしもそれがイヤだと言うのなら籠の中にお帰りなさい。それもまた選択の一つでしょう」
「い、いいえ! 私はまだ――」
「ならば剣を振るえ! 自分が甘ったれた小娘ではない事を! そうでない事を証明してみせろ!」
と、気迫を込めてガルドは叫び声をあげる。
リネットは縮み上がりそうになった。
だがこの旅の目的よりも、何よりも、籠の中の鳥に戻るのはイヤだった。
ここで逃げたら一生ダメになる。
そんな気がした。
だからガムシャラに向かって行った。
☆
気が付けばリネットはガルドの小屋の中で目を覚ました。
回復魔法を掛けられて痛みも引いている。
「私は――」
「丸一日寝ていられたのですよ、お姫様」
「ガルド殿――」
セリスとアリシアが心配そうに看病している中、ぬっと姿を現した。
「ご無礼をお許しください。ですがああしなければ私も腹の虫は収まりませんでしたゆえに――」
そう言って頭を垂れた。
昨日の激戦が嘘のようだ。
「いえ――良いのです。色々と思うところがありますが――プリス殿もガルド殿も無知な小娘に怒りを覚えていたのですね」
「はい」
「そして勇者の失踪には――我が国が関わっていると――」
「当たらずとも遠からずですな――」
「教えて下さい。異世界の勇者は――どんな人だったのですか?」
とリネットはベッドから立ち上がり懇願した。
ガルドはまるで遠い何かを見詰めるように顔を窓の外へと向けた。
「そうですな――最初は何も知らない、世間知らずの貴族の息子。昨日までの姫様と大して変わらんような人でした。ですが付き合って行くウチに段々と何故彼が勇者として召喚されたのか分かった気がするのです」
「プリス殿もそうでしたがガルド殿もそこまで仰られるような人だったのですか?」
「はい。確かに剣の腕も――いや、アレは一種の天賦の才ですな。ただ優しかった。知ってますか? 勇者殿がいた故郷では勇者と言う文字は勇気ある者と呼んで勇者と呼ぶそうです。そう言った意味ではある意味彼は勇者の称号に相応しいでしょう・・・・・・」
「勇気ある者――」
「そうです。何しろ自分の意志を押し通す為に失踪したのですからな」
「り、理由をご存じなのですか!?」
リネットだけでなく他の二人も驚愕した。
「ええ。ですがその真実を知るにはまだ時期早々かもしれません。プリス殿も分かっていながらそうしたのでしょう」
そしてガルドの言葉を援護するようにアリシアはこう言った。
「姫様――ここはガルド殿の言う通り立ち去りましょう」
「そう・・・・・・ですね」
こうしてリネット達はガルドの元を後にしたのであった。
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