聖女のプリス

(ここが城下町――)


 金髪の長い髪の毛も後ろ髪に束ねたアップスタイルにし、ある程度装備が整った純白ミニスカ赤マントの冒険者風の出で立ちで町を好奇心全開にして見て回っていた。


 城下町は一件賑わっているが皆不安を押し殺して生活していた。

 それがリネットの印象だった。

 衛兵もマトモに仕事しているのか怪しいお供のセリスやアリシアがいなければ危なかった。

 

 セリスは長い金髪の美女で王女であるリネットも羨む程の美貌を持つ親衛隊の隊長。

 アリシアはショートボブの髪の毛の侍女長であるが相当な使い手である。

 二人とも衣装は綺麗な動きやすそうに改良されたドレスにアーマーの組み合わせの名のありそうな冒険者風の衣装である。

  

 二人とも最初はリネットの奇行に反対だったが、何を思ったのか旅に同行する事にしたのだ。

 条件はリネットは王女である事を隠す事。

 なるべく危険なトラブルは避ける事だった。


 そして最終確認として勇者の消息を見つけ出し、連れ戻す事だった。


 リネットは不謹慎ながらもこうして町に出るのはワクワクしていた。

 ずっとリネットはカゴの中の鳥同然だったからだ。 


 取り合えず冒険者ギルドの隅の席に移動して情報収集する。

 広い建築物だが思ったよりも人が少なく寂れている。

 リネットは不思議に思いながらもテーブルに腰掛けて相談した。


「それにしても姫様、アテはあるんですか?」


 セリスは不安たっぷりに聞く。


「ともかく失踪する前までの足取りを追うか、もしくは勇者の仲間達に出会うかが重要でしょう」


「まあ、ちゃんと考えていたんですね」


 意外そうにアリシアはのほほんとした返事を返してくれた。


「それにしてもここは寂れているのですね」


「当然です。魔王の脅威は日々増すばかり。この王都ですら安全ではなくなって来ています。皆、人が少ない地方などに疎開したり、まだ手が伸びてない他の国などに移動しています」

 

 と、アリシアが丁寧に解説してくれた。


「外の世界はそうなっていたのですね」


「本当に世間知らずのお嬢様と言った感じですね」


「こら、王女に失礼――」


「外の世界では多少の上下関係はあれど普通の人として扱うと決めたでしょう? 最低でも貴族のお嬢様の護衛ぐらいかしら?」


「それはそうだが・・・・・・」


 セリスはアリシアの弁にバツが悪そうな表情をする。


「こんな状況なのに勇者様はどうして消えたのでしょうか?」

 

 リネットはそう言うや否や二人はハァとため息をついた。


「セリス――やはり私の教育が間違っていたのでしょうか?」


「こればかりはどうしようもないだろう。過保護が過ぎたのだからな」


「?」


 などとリネットを放って二人は言い合っていた。


「どうしたのですか?」


「「いや、なんでもありません」」


 リネットは首を捻る。

 取り合えず情報を収集する旅に出る事にした。


☆ 


 まず手短な人間の一人の元に向かった。

 神官のプリス。

 長い青い髪をメ三つ編みにしてメガネを掛けた優しそうな聖女だった。

 王都にいる教会にいるらしく簡単に出会う事が出来た。


 プリスは暗い表情で語ってくれた。


「姫様はともかく貴方達二人は何も知らないのですね」


 と、敵意を込めて前置きしてソファに座り語ってくれた。

 リネットはヒッと身震いしてしまう。


「行方は知らないのですか?」

 

 変わりにセリスが尋ねたが、返って来た言葉は「存じ上げません」の一言だった。


「共に旅をしてきました。目的は勇者の監視です」


「監視ですか?」


「今となっては昔の話ですが、まだ勇者召喚当時はまだ教会は野心がありました。勇者を利用として自分達に利益をもたらせないかと言うそう言う物が――だがその目論見は失敗し、私は実質この王都で魔王軍と戦い、運命を共にする事になるでしょう」


「そんな――」


 リネットは初めて聞く生々しい陰謀劇に声を失った。


「だがプリス殿は勇者のパーティーとして、聖女として祭り上げられていただろう? 政治的利用価値はあると思うのだが」


「そう言う話もありましたが・・・・・・もう疲れたのです。この状況も言ってみれば我々の身勝手が招いた事です。だからせめて最後ぐらいは正直に生きてみようと思ってこの地に留まっているのです。そのせいでより聖女として挙がめられてしまったのは計算外でしたけどね」

 

 ハハハとプリスは苦笑した。

 一方でリネットは外の世界の複雑怪奇な現実に困惑していた。

 その様子を分かっていたのかアリシアは「これも勉強です」と耳打ちして来た。


「プリスさんは戦わないんですか?」

 

「リネット王女。我々が戦う魔王とは何ですか?」


「え?」


「勇者様は確かに頼りなくて、情けない部分がありました。だけど優しかって、ここぞと言う時の勇気がありました。そして聡明な方でもありました」


「何を言って・・・・・・」


 口振りからして公爵家のグリシアの事を言っているのではないと分かる。

 だからこそ困惑した。


「不思議な方でした。随分と抜けてて、優しくて、何だかんだで私の事もお見通しで・・・・・・それを知った上で信頼して・・・・・・だからこそ付いていこうとしたんですね――私が語れるのは以上です。お引き取りを」

 

☆ 

 

 リネットは勇者の事やプリスの考えが理解出来なかった。

 セリスの説明で「プリスは教会から送り込まれた間者である」事が説明された。

 人類同士手を取り合わなければならないのにどうして? と思いもしたがアリシアには「人とは姫様の想像以上に複雑なモノなのです」と言う答えが返った。


 とにかく次の行き先は決まっている。


 そのために王都の外へと出た。 

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