紋章官のおしごと
賽骰だいす
第1話 とりあえずぶっ壊す
「それではッ!グレヴナー家の家屋!及び調度品の破壊をこれより執り行うッ!!」
『はっ!』
「紋章の付いたものは全て破壊ッ!一つも残すでないぞッ!!」
『応ッ!!』
身丈ほどもある赤い長髪を艶やかになびかせ、小柄な少女の檄を受けた十数名の体格のいい兵士たちが鬨の声を挙げる。
兵士はそれぞれに剣や槍……ではなく、大鎚を突き上げ恭順を示す。
「お、おーぅ……」
「なんじゃ覇気のない。“
「といっても『破壊』なんて言われてもなぁ」
「それ以外に言いようがあるまい」
その小柄な少女に影法師のように付き従う黒髪の青年がぼやく。
服装をみる限りでは兵士と同じものだが、その割には少女に対して随分と気安く応対をしている。
「さ、お主も早く行った行った。なんのために儂の助手として連れてきたのかわからぬわい」
「セリーが勝手に連れてきたんだと思ったけども」
「アオイが全く仕事せんからじゃ。ケツ蹴り上げるぞ。あとセリーと呼ぶのはやめろと言うたであろう」
「仮にもお嬢様がケツとか言うんじゃないですよ」
「仮にも、は余計じゃな。さっさと言って来ぬか!」
言葉通りに尻を蹴り上げられつつ、アオイと呼ばれた青年はのろのろと兵士の列に従う。
行く先は戦場……グレヴナー家の邸宅である。
ただ、戦場とは便宜的なもので、実際はただの破壊活動である。
破壊するのは――邸宅そのものだ。
「お前さんもあの姫様に気に入られちまって大変だなぁ」
「なんでまたオレなんですかねえ」
「さあなぁ。あの姫様、高飛車だから」
「答えになってないかなー?」
「まあ、姫様の補佐として頑張ってくれや、な」
兵士の一人とアオイが雑談をしている最中にもグレヴナー邸は着々と破壊されていく。
「解体」ではなく「破壊」である。
邸宅の主はもはや抗うことさえできずぐったりと兵士に身を預けている。
それはそうだろう。自らの財で成した邸宅がみるみるうちに破壊されていくのだ。それも、更地にするために。
身を切られるような、というような形容さえ生ぬるく感じられるだろう。
さらには邸宅内の家財道具――家具をはじめ、装飾の鎧、茶器、スプーン、果ては
執拗なまでの丁寧さでもって行われる破壊活動。グレヴナー家当主の指から
セリーと呼ばれた少女と、その一群は一体なんのためにこのような蛮行を働いているのだろうか?
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