第4話人間の僕の中身

「そんで、お前はどうしたい? アカメ」

「どうとは? ヒッキー」

「ヒッキーいうな! オレは羽生飛鳥(はぶあすか)だ!!」

「すんません。なんか僕からしたら、毎日世話してきたガマガエルにしか見えないもんで!」

「まぁ別にいいけどよ、ヒッキーでも。なんかそんな愛称の芸能人がいたような気がするしよ」

「ああ、ブリーフを何十枚も重ね着する人ですね?」

「その芸人ちがうわ! 歌手だ、歌手!」

「へぇ。カエル歴21年にしては、芸人のことなんてよく知ってますね?」

「まぁな。お前の部屋で飼われている間も一緒にテレビを観てたしな。野良ガエルしていたときだって、たまに近所の家の軒先からテレビを覗き見してたもんだぜ」

「野良ガエルってあんた。基本的にカエルは野良でしょうに。ってか覗きって……そんなこともしてたんですか?」

「……してたが、なにか?」

「まさか、犯罪に手を染めたりしていないでしょうね?」

「カエルに人間の法律は関係ないのだぜ?」

「うわっ! この人最悪だ!!」

「いやいや、早とちりしてはいかんよ君。たしかにオレは誉められないこともしてきたかもしれねぇが、それは命がけでやっていたことなんだぜ」

「命がけっスか?」

「考えてもみたまえよ君。ガマガエルの見た目に嫌悪感を抱く人もいるんじゃないかね? というかそう思う人の方が多いだろうな」

「まぁ……そうですね。僕はガマガエル大好きですけど」

「///照れるぜ、おい。 例えばの話だぜ? オレが覗きをしていたとしてだ、それを人間に発見されたとしよう」

「まぁ最悪、駆除されるかもしれませんね」

「だろうが。つまりオレはいつだって、命がけで覗きをしていたわけだ」

「だったら何だっつーんですか?」

「いやほら、なんか<<ミッションへの挑戦>>みたいな感じがしてこねぇか?」

「んー。分からなくもないような気もしますけどね」

「だろうがよ」

 まぁ、確かにカエルに変身しちゃった時点で、色々と免罪符を与えても良いような気もするし、これ以上追求するのはやめておこう。


「話が逸れまくったな。で、お前はどうしたい? アカメ」

「どうとは? ヒッキー」

「ヒッキーいうな! オレは羽生飛鳥(はぶあすか)だ!! って何回やんねん、この流れ」

「いや、やらなくちゃいけない義務感を感じたんですよ」

「分かるぜ。でも話が進まねぇ……」

「すんません。羽生さん」

「飛鳥の方がいいな」

「えー……全然アスカって感じじゃないんですけど」

「ガマガエルだしな! でもアスカと呼べい」

「はぁ、分かりました。アスカさん」

「うむ。そんでお前はどうしたいんだよ?」

「どうとは?」

「だーかーらーーーー。今後の話だよ。この水槽の中で飼われていたいか、外に出てみるかって話しだよぉ!」

 んー。この人なんだか、からかいがいがあるんだよねぇ。

 でも確かに話が進まないか。

 僕としてはどうしたって、人間に戻りたい。

 水槽の中で、カエルとして生きるなんてゴメンだ

「やっぱ外に出たいっスね。人間に戻るために!」

「そうか。オレは別に止めねぇけどよ。結構しんどいぜ?」

「一緒に来てはくれないんスか?」

「んー。別にいいけどな。オレもそろそろ水槽の生活に飽きていたところだったし」

「結構面倒見がいいんですね。飛鳥さんって」

「///」

 可愛いな、このオッサン

「でも、どうやって出るんですか?」

「え? 普通にジャンプして?」

「いや、でも、天井は硝子板で覆われていますよ」

「ああ、それなら大丈夫だぜ。そこに寝ている<<お前>>が、オレたちに餌をやるときに天井を外すはずだ」

「え? あ、そうか。<<カエルと僕が入れ替わったわけじゃない>>って飛鳥さん言ってましたもんね。ってことは、僕の中身は一体何が入っているんですか?」

「そりゃ、内臓じゃねぇの?」

「じゃーなーくーてーーー!!!」

 くそっ!

 先程のお返しをされてしまったようだ

「へへん! オレも詳しくは知らねぇんだけどな。少なくともカエルの人格が入っているわけじゃぁねぇ」

「どうしてそんなことが分かるんです?」

「見たからな」

「何をです?」

「何ってオレを」

「人間の飛鳥さんを?」

「そうだ。いやな、オレは変身した後、ずっとその周辺で生活してたわけよ」

「僕が飛鳥さんを捕まえた茨城県の河原っスよね」

「そうそう。だからオレは、人間時代のオレの生活圏でカエル人生を送っていたわけよ」

「ふんふん」

「で、見ちゃったわけよ。人間のオレが歩いているのを」

「なんですとー!?」

「中身がカエルだったら、ぴょんぴょん跳ね回るだろうし、言葉だってしゃべれねぇんじゃねぇか?」

「まぁそうでしょうね。きっと格子のついた病院に入れられちゃうかもしれませんね」

「だけどよ、人間のオレは普通に歩いていたんだよ」

「ほほぅ」

「オレは河原でお前に捕まるまで、18年間そこで暮らしていたんだ。人間のオレを見かけたのは1度や2度の話じゃねぇ」

「ふむふむ」

「そんでよ。人間のオレもしっかりと成長していくのよ。いつの間にか大学生っぽくなって、スーツとか着だしてよぉ……」

「社会人デビューですね!」

「おうよ。そんでな……なんということでしょう……ついに家庭まで持ってしまったのです」

「なんだってぇぇぇ!!!」

「それも嫁さんが結構美人なのよ。まぁオレもイケメンだったから、解らなくもねぇけどよ」

「おー。なんだか複雑な気分っスね」

「あ……なんだかオレも人間に戻りたくなってきた……あの嫁さんはオレの嫁さんだ!」

「んーその理論が正しいかどうかは置いておいて、一緒に外に出てくれるなら嬉しいっス!」

「まぁだからだ、いずれにしても、カエルに変身しちまった人間の中身は、少なくともカエルじゃねぇんだ。だから普通の生活をするはずだ」

「なるほど」

「だから恐らく、人間のお前は、ちゃんとオレたちに餌をやりに来ると、オレは予想しているわけだ」

「微妙に希望的観測っスよね?」

「希望も持ちたいってもんだろうよ。だって、そうじゃなきゃオレたちココで死ぬぞ? それも確実に」

「あ、たしかに」

 うわぁ、これって結構やばい状況かもしれない。

 人間の僕よ……頼む!

 僕たちに餌をくださーーーい!!!

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アサガエル ビバリー・コーエン @beverly_coen

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