第3話羽生飛鳥さんのカエル化のお話

「それじゃぁ、心して聞けよ」

「はい」

 羽生はぶさんは、少し声を低くして話し出す。

 重苦しい語り口調に、僕はゴクッと息を呑んだ

「俺がカエルになった時、偶然、隣に四聖賢者のオッサンがいて<<人間に戻る方法>>を教えてもらったのだ。以上!」

「……試練は?」

「ないな!」

 なんだそれ!?

 ズルくねぇ?

「ズルくないっすかね?」

「なんでだ? 偶然、四聖賢者のおっさんの側でカエルになっちまったんだから、仕方ないだろう?」

「そうかもしれないっすけどぉー。納得いかねー!」

 ジトッとした目線を羽生さんに送りつける

「で、肝心の<<人間に戻る方法>>は、結局何なんですか?」

「ああ、それはな。ほれ、そこに人間のお前が寝ているだろう?」

「ええ、居ますね」

「アレを喰えば元に戻れるらしいぜ?」

「はぁ?」

「だから、カエル化した人間が元に戻るには、自分自身、つまり人間の自分を喰えばいいってことだな」

「無理ゲーじゃないっスか?」

「ああ、だから俺は諦めたね」

「……」

 どう考えても無理だろう?

 大体にして、サイズ的に無理な話だと思う。

 なんか今は、そのことを考えたくなくなるなー。

 うん。ちょっと、話を変えよう

「そういや羽生さんって、どういう状況でカエルになったんですか?」

「ああ、それ聞いとく?」

「ええ、聞きたいですね」

「ふむ。いいだろう。なんせ暇だしな!」

 少し長くなりそうなので、僕らはよくあるインドネシアだかのカエルの置物の如く、水槽に設置されている木に並んで腰掛けた。

 普通のカエルに出来る姿勢では無い気がするけれど、そこら辺は人間の思考があるからか、やろうと思えば出来るらしいかった。


「それじゃぁ話すが、アレは21年前……」

「はいストップ!」

「なんだよー。いきなり話を折るなよな!」

「長くないっすか!? 21年前って……どんだけカエルやってんすか」

「だから21年間だろうが」

「あ、そうか、そりゃそうだ。スンマセン」

「うむ」

「つーか、羽生さんって何歳なんですか?」

「38歳になるな。17んときにカエルになったからな」

「なんかスイマセン……生意気な口を聞いてしまって……」

「気にするな。俺はお前のペットだったわけだし?」

 そうか、よく考えれば、俺は30代後半のおっさんを飼育していたってわけだ……なんか妙に気分が沈んだ

「話を戻すぞ? 21年前、17歳だった俺は、地元の茨城県の河原でカエルに餌をやっていたのだよ」

「カエルが好きなんですねー」

「いや大っ嫌いだな!」

「意味がわかんねっす」

「俺はな、カエルが本当に苦手でな。奴らを見ると悲鳴を上げてしまうぐらい嫌いだったんだよ」

「でも餌をあげていたんですよね?」

「俺にはそん時、彼女がいてなぁ。そいつと河原で歩いていた時、カエルが飛び出てきやがってな、案の定、俺は女の子みたいな悲鳴を上げちまったってわけだ。硬派な不良を気取っていた俺がだぜ?」

「彼女さんはドン引きっすスね。あ、あと彼女がいたってところに憎しみを覚えました」

「それで、あっけなく振られちまってなぁ。だから俺はカエル嫌いを克服したくなって、近所のペットショップでカエルの餌……ペレットっていうの? 固形の餌を買ってきて、河原でカエルに餌付けしてみようと思ったわけだ」

「なるほど、カエルに慣れていこうって思ったわけですね」

「うむ。だが俺は飛び出てきた大量のガマガエルに気絶しちまったわけだ」

「うわーダセぇ……」

「返す言葉もないな! それで目を覚ましたらガマガエルになっていて、隣に四聖賢者のオッサンがいたから、その人に色々教わって生きてきたってわけだ」

「た、大変でしたね……」

「んー賢者のオッサンがいなかったら、大変だったろうなぁ……多分すぐに死んでたんじゃないかな? オッサンの脛かじって生きてたから、お前が思うほど大変じゃなかったな」

「不幸中の幸いってやつですね」

「まぁな。そんで3年前だっけか? 高校生だったお前にその河原で捕まって、今に至るって感じだな」

「ほんとスイマセンでした」

「いやいや、外で生きるよりも快適な生活だったぜ? 基本食っちゃ寝してりゃいいわけだし」

「そういってもらえると救われます……ん」

 ちょっと待て!

 ってことはだ……色々マズくないか?

「あの……ということはですね」

「なにかな?」

 羽生さんがニヤニヤしている。

 僕が言いたいことが分かっている顔だ……

「僕の多感な高校時代のアレヤコレヤを、全部……見てきたってことッスよね?」

「ギャッハッハ! そうだぞぉ……そういうことだぞぉ……あんなことやこんなこと、全部見てきたぜ!!」

「うわぁぁぁあああ」

 死にたい。

 誰か僕を殺して下さい!!

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