第8話

 夢から目覚めると私を待っていたのは最悪の現実だった。

 なんだか、すべてが夢みたいな気がした。夢はあんなに幸せだったのに。

 お母さんのお小言。弟の冷たい視線。そして、なによりこの頭痛と吐き気!

 あぁ、もう、酒やめたぁ、ってな、気分だった。

 しかし、あの後、私はどうやって家に帰ってきたんだろう。

 ううむ。分からない。

 とりあえず、私は生まれて初めての二日酔いに耐えながら登校した。


「おっはよー」

 下駄箱の前で、うららのいつも通りの元気な声に迎えられた。

「よして、頭に響く……」

 へなへなと上履きを手にへたりこむ私。

「昨日は大変だったっすよ」

「なにがー」

「酔っぱらいおぶって家まで連れて帰ったんだもん」

「え?」

「ちょっと、ダイエットした方がいいな、緑子は」

 失礼なっ!

 でも、そっか、うららがおぶってくれたんだ……。

 腹立たしい気持ちと、なんだかやさしい気持ちが同時にあふれてきてなんだか変な気持ちだった。

「もし、気持ち悪くなったら、言いなよね。またおぶって帰って上げるからさ」

 にこりと笑うと、うららはひらひらと手を振って教室に向かった。

「──まったく、なんだかなぁ」

 呟いて、私は苦笑いした。

 そして、上履きを履こうとした時、私はそれに気が付いた。

 上履きの中に入っている、四つ折りのメモ。

 そっと、それを開いてみる。

「わ」

 私は目を丸くした。

 紙一面に描かれた無数のひまわり。

 そして、そこに書かれた一行だけの文章。


 ──夏になったら、ひまわりを見に行こうね


 はっとして、私は顔を上げた。

 いたずらっぽい笑顔のうららと目があった。

「ばーか」

 投げつけた私の言葉にうららはひるみもせず、私に向かって両手で大きく投げキスをした。

「ばーか」

 もう一度、そう言ってみる。

 だけど、頭の中はすでにひまわりでいっぱいで、なんだか私はおかしくて──。

 思わず、笑ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

春とうららと桜色の夢 CHEEBOW @cheebow

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ