第3話

 ぽっかりと月夜だった。

 時計の針はとうに零時を回っていたけど、何となく寝付けなくて、私はぼんやりと月を見ていた。

 すっかり春になって、こうして窓を開けていても寒くない。

 私は、このくらいの季節が一番好きだ。

 そうやって、ぼーっと月を見ていると、

「みーどーりーこー」

 庭で私を呼ぶ声がした。

 まさか、と思った。でも、そのビー玉を転がしたようなその声は──間違いない、うららだ!

 窓から顔を出して庭を見ると、案の定うららがいた。

「うららっ! なにしてんのよ、あんた!」

「遊びに来たんだよーん」

「今、何時だと思ってんのよ」

 ──お前は、ストーカーかっ!

「ねーねー、緑子、あそぼっ」

 暗闇の中だし、ここは二階だしでその表情はよく見えない。でも、その弾んだ声を聞けば想像くらいつく。

 そう、あの笑顔──。

「あそぼってね、あんた──」

「暇でしょ?」

 そりゃあ、暇だろう。

 こんな夜中に、忙しいわけないだろう。

「立ち話も何だしさ、降りておいでよ」

 手招きする、うらら。

「やだよ。もう寝るんだから」

「わー、つれないなぁ。さびしーなー」

「いいから、もう帰った帰った。私寝るよ」

「そう言わんと、あそびましょ。ね」

「やだってば。じゃね、おやすみ」

 言い捨てて、窓を閉めようとした私をうららの声が止めた。

「遊んでくんなきゃ、叫ぶよ」

 子供がすねたみたいな声だった。

「大声で、緑子緑子って名前連呼しちゃうよ」

 ──う、わーっ。

「ちょ、ちょっと待ったー!」

「十秒前、九秒前──」

 うららは、不意にタイムカウントを始めた。

「ま、待った。ウェイトアミニットプリーズ。下行くから。ちょっと待って、着替えるからっ!」

「にやり」

 と、うららが言った。

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