第153話 痛んでも傷ついても

 いろんな果物とか木の実がなっている森の中で、

村の男の子が毛虫の魔物に襲われかけたところに

遭遇した おれ達が その子を助けたんだけど……



 ――触るなっ!!


 ――さっさと村から出て行け!!



 そう言って 青い髪の男の子は

村へと走り去っていった。


(まぁ、あの子が無事なら それでいいか。)


 そう思いながら、おれは自分の手を見ていた。



 ……払いのけられた手が痛いな……


 あの子、絶対おれの髪が黒いから、

そういう態度に出たんだろう……



「そ、ソーマ……」


 アルテナの心配する声を聴きながら、

ジョンとバーントさんの心配している様子を見ながら、


「まぁ、こういう時もあるよ。」


 おれは明るい声をみんなに聞かせていた。


 殺されかけたことがあるんだから、

手を払いのけられることなんてたいしたことないしね。



 どうでもいいけど、

ヴィラックは輪切りにされて死んだ毛虫の魔物を

観察しているようだった。





 ソーマ達が森の中で一悶着ひともんちゃくあった頃――



(いきなり胸を強く掴まれるなんて……)


 その時の痛みを思い返しながら、

シアンは家の中で のんびりとしていた。


(本か何か借りられると……借りれる物があるんでしょうか? )


 居間の机にしたシアンは、

退屈を潰すための何かが欲しくなっていた。



 シアンが暇潰しできる何かが欲しくなっていた一方、

厨房の方では、マルゼダが村人から貰って食材を

棚や容器へ保管しているところで、

 またミザリーは その食材から、

食事の献立を考えているようであった。



 机に上体を預けているシアンが、

自身の腕や豊満な胸に頭部を埋めさせていたが、


(ソーマさんも、退屈だったんだろうなぁ……)


 少し嬉しそうな様子で村の外へ行ったソーマを思い、

シアンは顔を上げて ふぅ と、ため息を漏らしていた。


(……なんだか……)


 ソーマの行動に変化が出てきたように

シアンは感じていた。


(あの門番の目つきとかは いやらしかったけど……)


 カラパスの村に来た時の 門番に対してのソーマの言動が、


(あんな苛立った物言いを……)


 するような人柄であったかどうか、

シアンには わからなくなっていた。


(私の前ではソーマさん、いつも優しくって……)


 ホルマの街で初めて会った時や、

彼女の師匠であるブラウの家に寝泊りしていた頃を思い出し、


(でも、『誰か』のためなら あんな感じになってたのかな? )


 ホルマの街で、アルテナとソーマが悪漢に絡まれ、

悪漢がシアンやブラウを悪し様に言おうとした時、

ソーマは男を殴り倒して説教をしたと、シアンは伝え聞いていた。


 ハニカ村の中では、ソーマははちの魔物に寄生された男を

殴って正気に戻させたことを、後から聞いたシアンはとても驚いていたし、

 ハニカ村の近くの森で、自分たちを守るために、

向かってきた蜂の子供に対し、くわを振り下ろした姿を見たのも、

シアンには初めてのことであった。



(でも、ソーマさんも辛い思いをしてきている……)


 シアンが旅に同行し、ホルマの街を出てからというもの、

ソーマにとっては苦難の連続であったことを、シアンは知っている。


 肉体的にも、精神的にも苦しめられていることを。


(それを表に出そうとは していなかったけど……)


 その分、心の内に抱え込んでいるであろうことは、

人付き合いの乏しいシアンにも容易に想像がついていた。


 ソーマの抱え込んだ苦しみや悲しみがあふれ出した時、

彼がどういう状態になったかを見て知っているからであった。


 ソーマのそんな姿を二度と見ないようにするため、

ソーマがアルテナを『かばった』ことに少し嫉妬したため、


(ソーマさんが戻ってきたら、

みんなの見てる前であっても ギュッと抱きしめちゃおうかしら。)


 子供がいたずらを思いついたように シアンは頬をほころばせ、



 コンコン



「ソーマさん? 」


 家の入り口の扉を叩く音を聞いて、

シアンは立ち上がると、入口へと小走りで駆けていった。



「はい。……? 」


 シアンは にこやかに扉を開け、見慣れない訪問者を――


「初めまして、私は この村に住むロスティです。

パルステル教について、知識は おありでしょうか? 」


 目の前に立つ、薄い水色の髪の女性に対して、

警戒をして表情を変えていた。

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