第151話 翌朝、村の外へ

(こんな朝早くから、ソーマはどこに……? )


 アルテナは雑魚寝していた居間の床に、

胡坐あぐらをかいて座ったまま周囲に目を向けていた。


 部屋に漏れ入る外の薄明るさで、

未だに眠っていたい欲求にかられるアルテナだったが、

彼女の向けた視線の先、彼が寝ているはずの場所には、

彼の隣で寝ていたはずのシアンがいて、ミザリーもヴィラックも、

マルゼダもまだ眠っているようであった。



 何者かに連れ去られた可能性をアルテナは考えてみたが、


(この場にいる全員に気づかれずに……)


 連れ去るなどは不可能である。と考え、

また、ソーマ本人が自発的に行動するしかないと考えたため、


(彼が自分たちの寝ている間に どこかへ行った。)


 アルテナは、そう判断していた。



(ソーマは……)


 カラパスの村に来た時の様子をアルテナは思い返していた。



 ―― 引き返すか森の中を進むか、どっちかでいいよ。


 アルテナが門番と揉めていた時に、

ソーマが不機嫌な様子で声を掛けていた。


(私じゃなく、門番をにらんでたから……)


 アルテナは、門番の男がジロジロと いやらしい目で

自分の体を見てきていたことに感づいていた。


(そういう目で見られることに慣れているつもりだけど……)


 不快な感情が芽生えることはどうしても避けられなかった。



 アルテナがソーマと出会った頃は、

彼も門番のようにとは言わないが、チラチラとは見ていて、

アルテナにとっては、やはり心地よい物ではなかったのだが。


(ソーマはもう、見慣れているしね。)


 それだけの期間、一緒に行動していることになると、

アルテナは思い返していた。


(少しずつ、かばわれたり守られたりしてるのね……)


 カラパスの村に留まらない選択を示したソーマの行動に、

過去に起きた出来事での、ソーマの選んできた行動に、


(彼が剣を振って、私を守る時が来る―― なんてことが

これから先 あるのかしら? )


 これから選んでいくであろうソーマの行動に

アルテナは思い、口元に薄く笑みを浮かばせていた。



「……えへへ……ソーマさぁん……むにゃ……」


 シアンが寝返りを打って仰向けになり、


「ふふ……私、胸が大きくて……むふふぅ……ぅん……」


 何の夢を見ているのか、

だらしない笑みをしながら胸を寄せ上げていた。



「……、……、……」


 アルテナは苛立ちのあまりにシアンの胸を鷲掴みにし、

シアンの悲鳴で家に居る者達が目覚めさせられることになった。





 うーん、二日酔いになっていなくて良かったよ。

酔うのはひさしぶりだったからね……

っていうか、酔ってんたんだねぇ……


 朝、シアンさんの悲鳴が聞こえて慌てて跳び起きたけど、

何もなくて良かったよ。


 ……何かは あったんだろうけど。



 朝食を食べ終えた後、村の安全確認の依頼をこなすため、

おれ達は村の南西に広がる森の中を見て回ることになった。


 ミザリーさんとマルゼダさん、そして痛みが残っているのか

胸を押さえているシアンさんが家に居残ることになった。


 おれは居残り組ではなく、外を見回る組に入っていた。


 アルテナとかジョンとかは、

おれが外に出ることに抵抗があったみたいだけど、

バーントさんやヴィラックが何か張り切ってるみたいだった。


 おれは貰い物のくわを片手に、少しワクワクしながら参加していた。


 ずっと家の中にいるのは、本当に退屈だったんだよ……





(よし、読み通り! )


 カラパス村の 青髪の少年バルトは、

物陰から こっそりとソーマ達を尾行していた。


 いつ頃から活動するのかがわからなかったバルトは、

前日の夜は早寝して、朝も早くから行動していた。



 バルトの両親は、バルトがソーマ達を尾行しようと

していることを知らないが、早くから家の外に出て

より活動的になっていることを喜んでいた。


 まだ子どもであるバルトが心配である反面、

村の狩人になろうとしていることに賛成もしており、


「バルトは教会でお祈りをしている姿より

元気に走り回っている姿の方が合っているわ。」

「バルトも男だからな。

ラルレ君のように落ち着いてほしいとは言わないが、

それは大人になってからでも良いだろう。」


 と、両親は笑顔でバルトについて語っていた。


 ソーマ達を尾行するために村の外に出ているとは

バルトの両親も思いもしていなかったが――

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