第147話 山の近くでは

 ソーマがヴィラックを居残らせ、

ミザリーと三人で食事をしている頃――



(ソーマがヴィラックに居残らせるとは……)


 バーントは山へと続く丘陵きゅうりょうを見てまわりながら、

カラパス村に残っているソーマの事が心配であった。



 バーントにとってヴィラックとは、

得体の知れない人間であり、またかつて、

ソーマを危険な目に遭わせようとした張本人であるからだ。


 バーントはジョンを通じて、

ヴィラックがソーマを襲った元使用人たちを惨殺したことも知っている。


 ジョンやミザリーが体の形状に変化が起きたように、

ヴィラックも最初は黒い粒子を体から発し続けていた。

 今は制御できているため、表に漏れ出すことはないが。



(おれに……いや、ソーマにしても珍しいが……)


 ソーマがヴィラックに対して どのような接し方をしているかは、

バーントに限らず、近くにいるアルテナ達も よくわかっていた。


(いったいソーマに何が起きたんだ? あいつを選んだ理由は? )


 そのような疑問が頭に浮かびながら、バーントは周囲を見回した。



 広大な、草原とも言えそうな緑に囲まれた山のなだらかな地形に

野性か否か、牛や馬、羊や山羊ヤギの姿がぽつぽつと見えていた。



(これだけ広いと、魔物が出てきてもおかしくはないが……)


 バーントは早々にソーマのところへと戻りたくなっていた。


 ヴィラックがソーマに何か仕出かすんじゃないかと、

心配になっていたのであった。


 結局バーント達が村に戻ったのは、もうしばらくしてからであった。





「な? 本当に裸みたいな恰好だろ? 」


 バーント達より かなり村に近い位置から、

アルテナの恰好を指差した青髪の少年バルトが

後をついてきた二人へ顔を向けて、声を掛けた。


「ほ、本当だ……」

「な、なんであんな恰好してるのよ……」


 薄い赤色の髪の少年ラルレも茶髪の少女ピアも、

どちらも顔を赤くし、遠くからアルテナの後ろ姿を見つめていた。



 村の中で狩人のヨートルを探していたバルトが、

村へやってきたソーマ達を見かけて後を尾行していた。


 村長の家へ連れられていった彼らが

早速 村の外を見てまわりに出ることを、

家の外で聞き耳を立てていたバルトは知った。


 村が貸した家に残る者と見てまわる者とで別れたのを

他所の家の陰へ移動し こっそりと見ていたバルトは、

外へ行くアルテナ達を尾行しようとしていたところに

幼馴染であるラルレ と ピアの二人がやってきた。


 単独で密かに村を出ようとするバルトを止めようとする二人に、

バルトは彼らソーマ達のことを話した。


 その時そこにいなかったラルレとピアの二人は、

バルトの話を中々信じれずにいたが、二人もバルト同様 多感な年頃であり、

平穏な村の中で退屈さを感じていた二人は興味関心をそそられ、

バルトと一緒に行動し、アルテナ達の存在を確認したのであった。



「けど、山の方じゃ見晴らしが良くて見つかりそうだな。」

「そうだね。」

「私達、勝手に村の外に出ちゃってるし、

大人たちに怒られない内に早く戻りましょ。」


 アルテナ達が山の方へと進んでいくのを見送りながら、

バルト達は尾行を断念し、村に戻ることにした。


(村の中には、まだ あの小さい奴とかいるしね。)


 バルトはそう思いながら、村へと戻っていった。



(村に戻って……ヨートルには、また今度教わりに行こう。)


 バルトの頭の中では、村の住人であるヨートルより、

通日程しか滞在しないであろう彼らへの関心の方が今は高かった。

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