第138話 役目(責任)

 ハニカ村の北の森の中、

アルテナ達は三人一組と二人一組に分かれて、

安全確保のための依頼をこなしていた。


 この日、バーントはジョンとともに

村の脅威となる魔物たちの捜索をしていた。



「なんだか、嬉しそうだね? 」


 周囲に視線を巡らせ、安全を確認したジョンが、

バーントに話しかけてきた。


「……まぁ、な。」


 バーントは軽く頬を掻いて、

遠くを見ながら そう返事をした。



 バーントはジョンの指摘通り、はちの魔物の討伐後、

ある種の達成感のようなものを感じていた。



(あの時、ソーマがおれを指名してくれた。)


 魔物に寄生された人間に殴りかかったソーマが、

蜂の魔物を倒す役目にバーントの名を呼び、

バーントは魔物のみを斬ることができた。


 あの場にいたアルテナやジョン、ヴィラックではなく、

自分を選んだことによる嬉しさもバーントには あったし、


(今回は、全滅せずに済んだ……)


 以前の魔物討伐の件を思い起こし、

バーントはそっと胸を撫でおろすことができていた。



 バーント主導で行った以前の冒険では、

組んだ仲間は不正を行っていたうえに全滅し、

村から借りた人員も みんな、死なせてしまった。


 それを知った者達からは同情や哀れみ、そして、


―― 頭役リーダーの役目を果たせない役立たず

―― どうせならお前も死ねば良かったのに


 などの陰口も叩かれていた。



 その時の事でソーマに迷惑をかけたことは、

これからも彼を守り続けることで責任を果たそうと

バーントは考えている。


 だが、それでも村人たちを死なせたことへの責任もまた、

バーントは感じていたのであった。


 責任からは逃れられないが、

それでも少しは軽くなったように、バーントは感じていたのだった。



「バーント。」


 そんなバーントに、ジョンは――


「なんだ? 」

「改まって言うのも恥ずかしくはあるんだけど――」





「――ボクに、剣の手ほどきをしてくれないか? 」


 ジョンは、赤と黄色の目で しっかりと

バーントを見つめていた。



 軽く驚いた様子のバーントがジョンを見つめ返し、


「ボクは……あいつよりも強くなりたいんだ。」


 ジョンはバーントに、その思いを打ち明けた。



 ジョンはブリアン家にいる時からずっと、

貴族として剣の扱い方は学んできていた。


 独学もあり、お抱えの冒険者から教えを受けることもあった。

 貴族らしく、ブリアン家の人間として、

性欲を振り払うために剣を振るい続けた時もあった。



 ノースァーマの街を、ブリアン家をミミズの魔物たちが

襲撃した際には、魔物一匹を単独で討伐することもできた。


(だが、ヴィラックは危険すぎる。)


 ジョンはヴィラックに対する危機感と、

彼に対抗できない自分の弱さに焦りを感じていた。



 ―― 強くなりたい?


 黒い空間の中で、肌の白いソーマと出逢った後、

ジョンの左目は赤くなった。

 シェンナという衛兵士の女がソーマを殺そうとした時、

ジョン自身でも驚くほどの速さで彼女を止めることができた。


(それでも、ヴィラックの方が強いだろう。)


 黒い煙を吐き、屋敷を襲撃したであろう男を殺し、

強者の余裕を持って行動しているヴィラックに、

対抗するためのちからがジョンは欲しかったのであった。



 ジョンはバーントを見上げた。



 村の中で、寄生された男の背中の魔物を、

バーントは男に傷をつけずに魔物だけを切り払った。


(ボクに、あんな真似ができるだろうか? )


 ジョンはバーントの力量を改めて知り、


(ボクは、ソーマ君のために、どこまでできるのだろうか? )


 剣を扱う者として、貴族として、男として、

ジョンは自身の力量がわからずにいたのであった。

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