第137話 想いを抱いて

 ハニカ村に来た おれ達は、

はちの魔物討伐の依頼を受けた。


 寄生蜂の魔物だなんて、思いもしてなかったけどね……


 その魔物の親玉を倒して、

犠牲になった冒険者たちの亡骸なきがらを持ち帰り、

村の中で、寄生されていたセイさんと戦って、

受けた依頼は達成した。


 達成して おれ達は、まだ この村に残っていた。



 アルテナと 二人で旅をしていた時に立ち寄った村、

デカい蜘蛛くもの魔物が近くにいた村で、

安全確保のための依頼をアルテナが受けたように、


 このハニカ村でも、

おれ達は安全確保のための依頼を受けていたからだった。


 まだ、寄生蜂の魔物がいるかもしれないし、

それ以外の種類の魔物もいるかもしれないしね……



 ハニカ村に やってきた冒険者たちと、

アルテナ達が村の安全確保のため北の森に通い続けている間、


 シアンさんとミザリーさんはアルテナ達に同行せず、

おれと一緒に村で留守番をしていた。


 ……みんな、おれに「村に居ろ。」って言うしね……



 村にいて、シアンさんとミザリーさんと一緒に居続ける日もあれば、

村の人達や冒険者たちに話を求められておもむく日もあった。


 来た時は、なんだか良くない印象をおれ達は持たれていたけど、

蜂の魔物は倒したし、セイさんのこともあるし、

村の人達は おれ達に感謝しているみたいだった。


 そして――



「……」

「……」


 セイさんの住んでた家で、

おれはキエラさんを抱きしめていた。


 あの日以降 ずっと泣き通していたらしいキエラさんを、

彼女の両親から慰めて欲しいと頼まれてしまって、

 食事も喉に通らないと聞いて おれ自身、

キエラさんを心配していたから……


 セイさんの家に通い始めた最初の数日は、

声を掛けることも顔を合わすことも難しかったんだけど、

抱きしめてみてからは少しずつ落ち着いてきたみたいで……


「セイ……」


 抱き返したキエラさんは、今でも彼のことを想っている……――





(ソーマさん、また彼女のところに行ってるんでしょうね……)


 シアンは、村から借りている廃屋はいおくの中で、

ミザリーと対峙しながら彼のことを考えていた。


 二人とも 短剣に見立てた木の枝を持って、

見様みよう見真似みまねに構えていた。



 ハニカ村に滞在することになって、

アルテナ達とは別行動することになったシアンと

ミザリーの二人は ソーマのいない間、


 自分たちも戦えるようにと、

独自に練習をすることを決めていた。


 シアンには魔法が、ミザリーは一応 弓が扱えるが、

有事の際には、短剣は扱える必要があると感じていたからであった。


 シアンは一応、短剣を持っているが、

ただ持っていただけであり、扱えるわけではなかった。



 短剣を使うことを シアンはあまり望まなかったが、


(彼に危険な目に遭ってほしくないから……)


 蜂の子供相手にくわを振ったのを見たことや、

寄生された人を相手に殴りかかったことを知り、

シアンの思いは強くなる一方であった。



 シアンもミザリーも、

ハニカ村では表立って歩くことはできる。

 けども、シアンは人付き合いが苦手なのことがあるし、

ミザリーは黒い魔力で変異した耳のことがあって、

二人とも廃屋に引きこもっていることが多かった。



 シアンとミザリー、二人でいる間に交わす言葉

共通する話題は、必然とソーマのことになり、


(少しでも、彼のちからになれるように……)


 二人は、戦えるちからが欲しかったのであった。



 二人がちからを欲する背景には、

何を仕出かすか わからないヴィラックの存在もあったが。



「たぁっ! 」

「くっ!? 」


 肩を狙うように振り下ろすミザリーのに、

シアンもを打ち合わせ、枝は小気味よく音を立てた。



 シアンはソーマと幾度も関係を結び、

また彼が、ミザリーとも結んでいることを知っている。


(私だけを見てくれれば良いのに……)


 それが彼女の正直な気持ちである。



 アルテナもマルゼダもバーントもジョンもミザリーも、

それからヴィラックも、


(みんな、ソーマさんが好きみたいだし、

ソーマさんも、みんなが好きみたいだし……)


 シアンは、降り続く雨の中でソーマとキスした時のことを

思い出し――


 シアンは、パプル家の敷地内で殺されそうになったソーマに

手を差し伸べたアルテナの後ろ姿を思い出し――


(私だけでは、守り切れないから……)


 彼への独占欲愛情も他の人達への嫉妬憎しみも一緒に、

想い決意を胸に抱いて、ミザリーと共に練習を続けていた。

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