第136話 人として

 アルテナは信じられない といった表情で、

一連のソーマの行動を見つめていた。



 アルテナも――


(もしかしたら、彼を助けられるのじゃないかしら? )


 という希望と、


(寄生されていたら、もう助からない……)


 という諦めとを持って 判断に迷った結果、


(どうすればいいの……? )


 時間稼ぎという愚策を取ってしまっていたが、



「あんたは!! いつまで操られているつもりだっ!! 」


 ソーマがくわを片手に突撃してきたことに

アルテナは驚かされていた。


 ソーマの拳は寄生された男の頬に直撃し、

よろめいた男はそのままソーマに体を掴まれ

互いの位置を入れ替えさせられ、

ソーマの指名を受けたバーントがはちの魔物を斬り裂いた。


(ど、どうなるのかしら……? )


 アルテナは、事態の推移を見守ることにした。





 バーントさんが寄生している魔物を斬ると、

男の体の力が抜けて、体を掴んでいた おれは、

慌てて彼を できるだけゆっくりと地面に寝かせた。



「セイっ!? 」


 彼を心配していたキエラさんが駆け寄ってくるのと、

あちこちに逃げていた村人たちが、遠巻きに眺めているのが

おれの視界に入っていた。


 セイって言う人を寝かせる時に片膝をついていた おれは、


「ぅ……」


 彼の小さな うめき声が聞こえて、


「おれは……キエラ……」


 彼の目線が、おれからキエラさんへと移ったのを見た。



 アルテナもバーントさんも、

寄ってきたジョンやヴィラックも、

今は黙って様子を見ていたのが見えた。


 まだ警戒しているのかもしれないけど……



「セイ……良かった……無事なのね……」


 安心したのか、それとも緊張の糸が切れたのか、

キエラさんはちから無く彼の横に座り込み、


「……いや……おれは……もう、長くねぇよ……」


 セイさんは、キエラさんを見上げて かすれた声で、


「セイ……」

「黒いの……」


 キエラさんはセイさんを見つめ、

セイさんは、おれを見つめた。



「な、なんですか? 」


 話を振られるとは思ってなかったけど、


「へへっ……効いたぜ……あんたの拳……」


 笑って差し出した彼の手を、おれは握った。


「腹の中も……背中も……頭の中まで

蜂に食われてた気がするが……ありがと、な……」


 そう言われて、おれは言葉に詰まった。


「人間に……人として……死なせてくれて……」


 おれは セイさんの言葉に、何も言い返せなかった……



「セイ、嘘よ……あの魔物は、もう倒したでしょう……? 」

「キエラ……おれ……」


 握るちからなく手を離したおれに代わって、

今度はキエラさんが彼の手をとった。


「セイ、お願いよ……生きて、愛しているから……」

「……あぁ……おれも……キエラを愛している。

……こんな時でないと、おれは想いを……伝えられないのか……」

「いいの。いいのよ……」


 二人は お互いを見つめ合って、


「だから、キエラ……」

「何……? 」


 想いを通わせて、


「おれは、幸せだった。だからキエラも、幸せにな……」


 セイさんは、それを言うと目を閉じて……



「セイ……? セイ!? ねぇ、目を開けて! 返事してっ!?

セイ……セイぃいいいいぃぃぃぃっっっ!!」


 キエラさんは、彼の胸にすがりついて

声を上げて泣いていた。



 空の太陽は高く、地上の悲しみとは無縁に青空には雲が流れていた。



 いくつもの足音とともにマルゼダさんやシアンさん、

ミザリーさんに村長と、村長に連れられた冒険者たちが

駆けつけてきていた……

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