第134話 蜂蜜採りのセイ

(あんな……あんなことになるなんて―― !! )


 北の森からハニカ村へと急ぎ戻っているキエラは、

その事実を知って 恐れおののいていた。


 キエラは、幼馴染おさななじみのセイを苦しめているのは

蜂の魔物の毒だと思い込んでいた。


 村にいる医師が出した薬でも セイは苦しみ続けた。


 だから解毒のためにキエラは 彼の家にあるくわ

持ち出して、なんとか魔物を討伐しようと考えていた。


 魔物を討伐し、その魔物の毒から解毒薬を作れれば、

彼を助け出せるという希望を彼女は持っていたからだった。



 しかし、森の中で彼女が見たのは、

悲鳴とともに腹を食い破られて死んだ冒険者たちと、

彼らの腹の中に寄生していた魔物の子供たちであった。


 冒険者たちが悲惨な末路を遂げたように、


(セイ……お願い……無事でいて―― !! )


 そうならないように、キエラは祈りながら戻っていた。





 前を走る村の女性を追いかけて、

おれ達は村に戻ってきていた。


 状況の流れで おれは彼女の鍬を持ったまま、

荷車はマルゼダさんに任せたまま走り続けていた。



 マルゼダさんとシアンさんとミザリーさんは、

村長の家へ森の中で起きたことの説明をしに行ってもらい、


 アルテナとバーントさんとジョンとヴィラックが

おれと同じように彼女を追いかけていた。



 彼女に、魔物に『刺された』人のいるところに

案内してもらうため、だったんだけど――



「――セイ……? 」


 一人で森に入ってきていた黄色の長い髪の女性が、

村の中で、青い髪の男性を見て立ち止まった。



 この人が、魔物に『刺された』村の人……?


 最初に魔物に襲われて、今もずっと家の中で

安静にしているはずの男性が、


 目の前の女性が心配していた男性が、

家の外で、こちらを向いて 一人で立ちつくしていた。



「キエラ……どこ、行ってたんだよ……」

「せ、セイ……ご、ごめんなさい……」


 うつむいて話す男性に、

キエラと呼ばれた女性が謝っていて――



 おれの体は、先ほどのことを思い出して

震えてきていたけど――



「アルテナ……」

「わかってるわ。」


 彼の不穏な空気に、おれとアルテナは駆けだした。



「ぎ、きキき キエラああああぁぁぁぁぁっっっ!! 」

「―― ひぃっ!? 」


 男の背中から、はちの魔物の親玉より小さく、

四匹の子供たちより大きな緑色の寄生蜂魔物が、

頭 前足 羽 尾を出し、男と一体化した状態で 彼女に迫った。


「―― 離れろっ!! 」

「っ!? 」


 おれは彼女を男から距離を離すように、

化け物になった男に鍬を向け、男が動きを止めたところで、


「たぁっ!! 」

「ごっ!? 」


 横手からアルテナは剣を抜かず 男の顔を殴った。



 男は殴り飛ばされたものの、背中の蜂が羽ばたいて宙に滞空し、

蜂の大あごと男の顎が同時にカチカチと噛み鳴らしていた。



「うわぁああああぁぁぁ!? 」

「セイが化け物になったぁぁっ!? 」

「は、蜂の魔物だぁぁぁっ!? 」


 この場を目撃していた村人たちが、

蜘蛛の子を散らすように あちこちに逃げまどっていた。



 おれと女性の前に、バーントさんとジョンと

ヴィラックが出てきて 剣を抜いて構え――


「待ってっ!! セイは……私の幼馴染おさななじみは操られているだけなのっ!! 」

「あっ、危ないからっ!? 」


 セイという男性の方へ行こうとしたキエラさんを、

おれは慌てて押し留めていた。


 見ると、ジョンやバーントさんは、

どうするのが良いのか測りかねているみたいだし、

ヴィラックも何を考えているのか 様子見をしていて、


 アルテナは未だに剣を抜かないまま、

飛びこんできた彼の攻撃を さばいていた。


 アルテナも、ジョンもバーントさんも、

彼が正気に戻るのなら、それを望んでいるみたいだった。


 おれだって……



 おれだって、助けられるものなら助けたいよ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る