第129話 ハニカ村
ふー、ひさしぶりに鎧が脱げる……
辿り着いた村で借りた廃屋の中で、
おれはフード付きのローブと、腕鎧と胸鎧を外して、
木の床に ごろんと寝転がった。
鎧を着たままの野宿と比べると、
脱げるだけで 体が少し楽になった気がしていた。
鎧の重さが ちょっと嫌になる時もあるけど……
二度も刺されるのは もっと嫌だから……
何があったのか、今は誰も使っていない
おれとシアンさんとミザリーさんの三人だけがいて、
外では荷車の見張りを、ジョンとヴィラックがしていた。
アルテナとバーントさんとマルゼダさんは、
村で 何か依頼がないかを聞きまわっている。
金貨は あるんだけど、なるべく貯めておきたいのが
おれ達の中では共通していたから。
目的の地であるチカバの街まで、
後どれくらい かかるんだろうか……
チカバの街についたら、おれとアルテナは……
「……ん? 」
机も椅子も、ベッドも何もない室内で、
「ソーマさん。」
「ソーマ様……」
おれと同じように鎧を脱いだシアンさんとミザリーさんが
おれの両隣に寝転がり、寄り添ってきて――
*
「
アルテナは 困り顔の村長に聞き返した。
「ええ、北の森の中で蜂が群生しておりましたが、
魔物になったようで……」
「それを討伐してくれば良いのね。」
「ええ……」
村長は うつむき、視線を
アルテナの質問に答えていた。
ソーマの住む世界とは違い、
また あらゆる生物が魔物化する この世界では、
蜂蜜が高価であり、また 蜂蜜酒は更に高価な代物であった。
ソーマの住む世界であっても 養蜂には専門の業者が、
蜂たちから身を守るために専用の防護服が必要なように、
この世界での『蜂蜜採り』は重宝され、高給取りであった。
(このハニカ村の規模が大きくなったのは、
まさに蜂たちのおかげなんだろうけどな……)
マルゼダは言葉を交わしているアルテナと村長を、
そして無言のまま場を見守っているバーントに視線をやり、
「この村に、他にも冒険者たちがいるようだが、
彼らには まだ依頼していないのか? 」
マルゼダは世間話をするかのように 口を挟んだ。
アルテナ達は、村長に話を聞きに行く前に
旅の宿や家の外にいる者達に聞き込みをしており、
この村にやってきていた他の冒険者たちの姿も確認していた。
「……」
「村長? 」
マルゼダに聞かれたハニカ村の村長は
うつむいたまま 沈黙をしていたが、
「いえ……他の冒険者の人達にも……依頼しているんですよ。
ただ……」
ぽつりぽつりと歯切れ悪く、
「……数日前に依頼を受けて森に入った冒険者たちが、
まだ帰ってきていないのです……」
ついには 村長は肩を落として、
諦めるかのように言葉を漏らしていた。
「村にいる冒険者たちは それを知って、依頼を断りまして……」
それを聞いて三人は、村長に同情するような視線を送りながらも、
「もっと詳しく知りたいわね。一匹だけじゃないの? 」
「魔物を村の者が見かけた時には、一匹だけのようでしたが……」
それ以上、詳しいことは何もわからなかったようだった。
ただ一つ、魔物を目撃した村人は その時、
蜂の魔物の針を腹に刺され、今も家屋で安静にしているらしい。
「どうする? 」
「どうするって、放っておくわけにいかないでしょ。」
マルゼダの言葉に アルテナは即座に言い返し、
「他の冒険者たちがやられてる前提で動くとして、
ソーマ達はどうする? 」
「……そこよね……」
黙ったままのバーントとも顔を合わせて三人は、
頭を悩ませ うつむいていた。
情報らしい情報がほどんどなく、
すでに依頼を受けた冒険者も殺されている可能性が高い。
そしてソーマ達が待っているとなれば、
アルテナ達も慎重にならざるを得なかったのであった。
結果、アルテナ達は 依頼の受諾を保留することにして、
一度 ソーマ達と合流することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます