第129話 ハニカ村

 ふー、ひさしぶりに鎧が脱げる……


 辿り着いた村で借りた廃屋の中で、

おれはフード付きのローブと、腕鎧と胸鎧を外して、

木の床に ごろんと寝転がった。


 鎧を着たままの野宿と比べると、

脱げるだけで 体が少し楽になった気がしていた。


 鎧の重さが ちょっと嫌になる時もあるけど……

二度も刺されるのは もっと嫌だから……



 何があったのか、今は誰も使っていないここ廃屋には、

おれとシアンさんとミザリーさんの三人だけがいて、

外では荷車の見張りを、ジョンとヴィラックがしていた。


 アルテナとバーントさんとマルゼダさんは、

村で 何か依頼がないかを聞きまわっている。


 金貨は あるんだけど、なるべく貯めておきたいのが

おれ達の中では共通していたから。


 目的の地であるチカバの街まで、

後どれくらい かかるんだろうか……


 チカバの街についたら、おれとアルテナは……



「……ん? 」


 机も椅子も、ベッドも何もない室内で、


「ソーマさん。」

「ソーマ様……」


 おれと同じように鎧を脱いだシアンさんとミザリーさんが

おれの両隣に寝転がり、寄り添ってきて――





はちの魔物? 」


 アルテナは 困り顔の村長に聞き返した。


「ええ、北の森の中で蜂が群生しておりましたが、

魔物になったようで……」

「それを討伐してくれば良いのね。」

「ええ……」


 村長は うつむき、視線を彷徨さまよわせながら

アルテナの質問に答えていた。



 ソーマの住む世界とは違い、

養蜂ようほうの技術にとぼしく、

また あらゆる生物が魔物化する この世界では、

蜂蜜が高価であり、また 蜂蜜酒は更に高価な代物であった。


 ソーマの住む世界であっても 養蜂には専門の業者が、

蜂たちから身を守るために専用の防護服が必要なように、

この世界での『蜂蜜採り』は重宝され、高給取りであった。


(このハニカ村の規模が大きくなったのは、

まさに蜂たちのおかげなんだろうけどな……)


 マルゼダは言葉を交わしているアルテナと村長を、

そして無言のまま場を見守っているバーントに視線をやり、


「この村に、他にも冒険者たちがいるようだが、

彼らには まだ依頼していないのか? 」


 マルゼダは世間話をするかのように 口を挟んだ。


 アルテナ達は、村長に話を聞きに行く前に

旅の宿や家の外にいる者達に聞き込みをしており、

この村にやってきていた他の冒険者たちの姿も確認していた。


「……」

「村長? 」


 マルゼダに聞かれたハニカ村の村長は

うつむいたまま 沈黙をしていたが、


「いえ……他の冒険者の人達にも……依頼しているんですよ。

ただ……」


 ぽつりぽつりと歯切れ悪く、


「……数日前に依頼を受けて森に入った冒険者たちが、

まだ帰ってきていないのです……」


 ついには 村長は肩を落として、

諦めるかのように言葉を漏らしていた。


「村にいる冒険者たちは それを知って、依頼を断りまして……」


 それを聞いて三人は、村長に同情するような視線を送りながらも、


「もっと詳しく知りたいわね。一匹だけじゃないの? 」

「魔物を村の者が見かけた時には、一匹だけのようでしたが……」


 それ以上、詳しいことは何もわからなかったようだった。


 ただ一つ、魔物を目撃した村人は その時、

蜂の魔物の針を腹に刺され、今も家屋で安静にしているらしい。



「どうする? 」

「どうするって、放っておくわけにいかないでしょ。」


 マルゼダの言葉に アルテナは即座に言い返し、


「他の冒険者たちがやられてる前提で動くとして、

ソーマ達はどうする? 」

「……そこよね……」


 黙ったままのバーントとも顔を合わせて三人は、

頭を悩ませ うつむいていた。


 情報らしい情報がほどんどなく、

すでに依頼を受けた冒険者も殺されている可能性が高い。

 そしてソーマ達が待っているとなれば、

アルテナ達も慎重にならざるを得なかったのであった。



 結果、アルテナ達は 依頼の受諾を保留することにして、

一度 ソーマ達と合流することにした。

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