第130話 出発前日

 ハニカ村にやってきたソーマ達がいる廃屋の外。


 廃屋は木の壁に囲われた村の隅っこにあり、

あまり村の者達も近寄ろうとはしないはずなのだが、

警戒のためにジョンは廃屋の壁に もたれながら立ち、

ヴィラックは荷車の上に腰かけていた。



「そんなに警戒しなくてもいいぜ?

おれはお姫様に誓ってるんだからさ。」


 荷車のふちに だらりともたれかかっているヴィラックは、


「……そう簡単に信用できるわけないだろう。」

「……」


 ジョンの険しい返事言葉に 大きく肩をすくめていた。



「そもそも、彼をお姫様と呼んでいるのは

どういうことなのかな? 」


 ジョンはヴィラックが、そして彼がソーマのことを

お姫様と呼ぶことが気に入らなかったのであった。


「ほら、いつだったか。

あのデカいの バーント がお姫様を抱き上げて街を歩いていたのを――」


 ヴィラックが歌うように喋り続けるのを眺めながら、


ソーマ君の靴や服を見立てに行った時には、

すでにコイツに見張られてたのか……)


 ジョンは内心 苦い思いをしつつ、


「――なのに お姫様を助ける役目も あのデカいのに取られて、

あまりにも苛立ちが抑えられなかったから、

お姫様を乱暴しようとしていた奴らには死んでもらったよ。」

「―― !? 」


 話し終えて笑うヴィラックに、


「彼らを殺したのは、お前だったのかっ!! 」


 ジョンは怒りをあらわにして詰め寄っていた。



 彼らとは 元ブリアン家の使用人たちのことだった。


 ジョンの両親の都合で辞めさせられ実家に帰ったが、

周囲の者達に嘲笑され、名誉や自尊心プライドを傷つけられ、

自堕落に腐っていた彼らは ジョンに復讐するため

ソーマを連れ去り彼を傷つけた過去があった。


 ジョンが彼らに国衛館へ行くよう勧めた後、

彼らは何者かに惨殺されていたのだった――



「そうだけど、何か? 」

「彼らは自ら国衛館へ行くはずだったんだ!! 」

「だから? 」

「―― っ!? 」


 まったく悪びれる様子もないヴィラックに、

ジョンは言葉を出すこともできなくなった。


 法によって守られているわけではないが、

正当な理由により殺人を犯すことが容易い この世界で、

彼らが殺されたことに義憤を感じていたジョンだったが、

今以上にヴィラックに対して、物が言えなくなったからであった。


 ジョンもまた、ソーマを誘拐し傷つけた彼らに対して、

殺意を抱かなかったわけではなかったのだから……



 しばらくジョンがヴィラックを睨んでいると、


 草を踏む音が近づき 二人のもとに、

廃屋にと、アルテナ達が戻ってきた――





「残ろうか? 」


 それが おれの正直な気持ちだった。


 アルテナ達が村長から聞いてきた魔物討伐の話なんだけど、

全員で討伐に向かうのか おれや何人かが残るのか で

おれ達は話し合っていた。


 おれもミザリーさんも戦闘は得意じゃないし、

アルテナ達だって、誰かを守りながら戦うのは大変なんだろうし……



 廃屋の中、全員で輪になって木の床に座り込んでいるんだけど、



「いえ、ソーマもミザリーも一緒に行きましょう。」


 意を決したアルテナが そう言った。


「もしも先に行った冒険者たちが生きていたとしても、

動ける状態かどうかは わからないし、

魔物と遭遇するまでにどれくらいかかるかも わからないわ。」

「……水と食料、荷車が必要になる可能性があるのか。」


 アルテナの言葉に バーントさんは合点が行き、


「ミザリーも弓ぐらいは扱えるだろうし、

それが良いかもしれないね。」


 ジョンも賛同していた。


 森の中らしいけど、荷車を二台とも持っていくのかな?


 まぁ、シアンさんやマルゼダさんは、おれ達が同行することに

拒否はしていないみたいだし……


「うん、わかったよ。すぐに行くの? 」


 おれも同行することにした。


 もし依頼を受けていた冒険者たちが生きているのなら、

一刻も早く救助に向かった方が良いんだけど……



「もうすぐ日が落ちそうだな。」


 外の景色を見たマルゼダさんの言葉もあって、

出発は明日の朝になった。


 非情かもしれないけど、

夜の森の中で自分たちが犠牲者になるわけにもいかないし……


 はちの魔物か……

うぅ、魔物じゃなくても蜂って怖いんだよなぁ……

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