第127話 旅路

(オレは、どう動くべきなのか……)


 朱色の髪の男マルゼダは、

ソーマ達と共に行動をしながら内心では考えを張り巡らし、

景色を楽しむこともなく歩いていた。



 ドーマの街で黒髪のソーマと半裸の剣士アルテナの

二人と知り合って、二人の素性は わからずとも、

二人の性格などは理解しているつもりのマルゼダであった。


 優しいが故にちからもなく戦えないソーマと、

そんな彼を守ろうと 非情にもなり戦い続けるアルテナ。



(チカバの街を目指して旅をしているというが、

あの街に『何が』あった―― ? )


 ノースァーマの街を出て 幾日か過ぎた頃に、

それとなく二人の目的地を聞き出したマルゼダは、


(どこに行くにしても、ドゥチラナカの街の方が

旅も容易たやすいと思うのだが……)


 ドゥチラナカの街を経由するつもりもなく野道を進み、

二台ある荷車のうちの 一つの上で、

腰を下ろして休んでいるアルテナの横顔を眺めていた。


 何を考えているのか、物憂げにも無表情にも見える横顔に、

アルテナの白金の髪が青空の風に吹かれてなびいていた。


 彼女の首にかけられたソーマお手製の首飾りが、

太陽の光に反射し、まるで色とりどりな宝石で作られたかのようで


(昔見た、ゴルド王妃の肖像画の偽物を初めて見た時のような――)


 それも相まって マルゼダの目には、

アルテナが とても美しく見えていた。


 マルゼダは過去に受けた依頼で、

肖像画の偽物を大量生産し 各地で売りさばこうとした者達を

斬り捨てていたが、その時に、本物に限りなく近い偽物を目にし、

しばらく心を奪われていたことがあった。


(待てよ―― ? )


 その心奪われるほどの美しさを

記憶から呼び覚ましたマルゼダは、


(ソーマが美異珠びいじゅと言っていた首飾り……

あの肖像画に描かれていた物と似て―― )


 そこまで考えて、即座に否定した。


(記憶の中だけの、しかも肖像画の偽物だからな……)


 思考の端からも斬り捨てたマルゼダは

前を歩くミザリー、シアン、ソーマ、ヴィラックの四人を見た。


ソーマだけ、何も変わっていないように見えるのがなぁ……)


 外衣ローブに隠された彼の黒髪も、

剣で刺し貫かれたはずの彼の体も、

黒い煙が噴きあがる前と何も変わらないようにマルゼダは思えた。


(周りの者は変わり、彼は変わらず……そして……)


 油断ならないヴィラックの動きを警戒しながら、

マルゼダは旅に同行していた。





 ノースァーマの街を追い出されて、

アルテナにネックレス ビーズ を渡してから数日が経った。


 舗装されていない むき出しの土の道を歩き続け、

丘を越えて、夜になれば脇の森の中に野宿の場所を作って夜を明かす。


 二台の荷車が入らないような森だったとしても、

アルテナとバーントさんとで木を切り、

ヴィラックとジョンでし折ることで、

自分たちの野宿に適した広さを作り出すことができていた。


 ヴィラックはともかく、ジョンがヴィラックに対抗するように

ちからを使い始めたのには正直 驚いていた。


 ヴィラックもジョンも、

変化が起きてから身体能力が向上したと言っていたし……


 ミザリーさんはエルフ耳になったけど、

特に変わったところはないらしいし、おれも……変わってないはず……


 新しく作ってもらった鎧とかが ちょっと重いくらいかな。


 そのうち慣れると良いんだけど……



 荷車に積んだ食料や水は、

もう何日か野宿できるくらいには残っているけど、

はやく街か村に着きたいな……


 ヴィラックと皆とで、

たまに怖い雰囲気になる時があるから……


 ヴィラックが本当に、

おれ達の仲間になってくれれば良いんだけど……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る